第19話 何気ない日 *王太子視点あり
街に行ってから一か月の月日が経ちました。
特に変わったことはありません。
毎日お散歩したりミシェルの作ったお菓子を食べたり動物たちと遊んだり。
とても楽しい日々を過ごしています。
そうそう。お散歩の移動範囲が広がりました。
今までは家の半径五百メートルくらいだったのですが、なんと二キロまで増えたのです。
かなり遠くまで足を運ぶことができます。
それに新しい道を通るドキドキもあって新鮮な気分になれます。
ただ、歩いて二キロは少し疲れてしまいます。
これでも私元は深窓の令嬢なのです。自分で言うのもなんですが。
そういうわけなので、体力なんてある筈もないのです。
それをミシェルに相談すると、魔法で「自転車」というものを作ってくれました。
これはミシェルの記憶にあったものらしく、ミシェルのいた世界の人たちが日常的に利用していた乗り物だそうです。
これのおかげで移動が楽になりました。とても便利なものです。
しかし、乗りこなすのに時間がかかりました。バランスを取るのがすごく難しいのです。
ミシェルに教わりながら練習をして、何とか一週間で乗れるようになったのです。
これでも結構頑張ったのですよ?
「お嬢様。私はこれから街に行ってきます。くれぐれもお怪我をしないように気を付けてくださいね」
「大丈夫よ。子供じゃないんだから」
今日はミシェルが街にお肉の調達をする日です。
以前ガッフの街に行ったとき、ミシェルがこっそりと小さな小屋を建てたそうです。
もちろん土地を購入してですよ。
そこを拠点として登録して、なんと転移魔法を使って街に行くことができるそうです。
なんだかやっていることが普通じゃありません。万能メイドを越えて超人メイドになったようです。
私からは特に何か言うことはありません。どんなに変わってもミシェルはミシェルです。私のメイドであることに変わりはありませんもの。
それに『私は使えるものは何でも使いますよ。それが人でも自分の力でも。せっかく使えるものがあるのに利用しない手はありませんよね~』と言っていました。
まったくもって同感です。使えるものは使う。当たり前ですね。
『お~い、ユミ~。ちょっと来て~』
ティアが呼んでいますね。何でしょうか。
ここ一ヶ月でさらに距離が縮まりティアは私を「ユミ」と呼ぶようになりました。
嬉しいですね。お友達になったような気がします。
こんなことを言うとティアは『もう友達でしょ? 今さら何言っているのよ。……それに友達というかもう親友……い、いや、何でもない! ないったらないんだからー!!』と言っていました。とても可愛いです。
『ユミ~?』
「今行きますよ~」
さて、呼ばれたので行きましょう。
今日も一日、楽しいことがありそうです。
◇◇◇
*王太子視点
あれから一か月が過ぎた。
未だに何の情報もない。ユミエラが見つかったという報告が全く来ない。
どうなっているんだ、まったく。
王都にいないのは確かなのだから周辺の領地を探せば見つかるはずだ。
なのにどうしてこんなに時間がかかる。
門番はユミエラが王都を出た記録がないと言う。そんなわけあるか。
大方仕事をサボっていたのだろう。クビにしてやった。
私の周りには無能しかいないのか。
「殿下!」
急に扉が開いたと思えば部下が勢い良く入ってきた。
俺の部下はノックという常識すらないのか。
これで何度目だと。
「だからお前はノックをしろといつもいつも……」
「そんなことより! ユミエラ嬢の居場所が分かったかもしれません!」
「何ぃ!? それを早く言わんか! それで奴は何処に?」
「……冒険者の街ガッフです」
「……はぁ?」
冒険者の街ガッフ。ここからかなり遠い。
馬車を使っても最速で二か月はかかる。どうしてそんなところに。
いや、どうやってそんなところに。まだいなくなってから一か月しかたっていないぞ。
「ガッフの街の冒険者ギルドに三人組の美女が現れたと冒険者の間で噂になっているそうです。話を聞く限り特徴がユミエラ嬢のようだと」
「どんなだ?」
「はい。一人はこの世のものとは思えないような美女。もう一人は見るからに高位の令嬢で金髪猫目の赤い瞳。腕には虎のぬいぐるみを抱えていたそうです。あと一人が少し短めの黒髪でメイド服を着ていたそうです。ユミエラ嬢は一人だけ専属だったメイドを連れて行ったそうです。かなり信憑性は高いのではないでしょうか」
「なるほどな……。よし、すぐに準備をせよ。ガッフに向かう。貴族たちにも話を流せ。ユミエラを捕まえたものには褒美をやるとな」
「かしこまりました」
待ってろ、ユミエラ。必ず連れ戻してこき使ってやるからな!
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