地獄の78丁目 魔王、その名は
うへぇ、ペッペッ! 口の中がジャリジャリする。なんだこれ、灰か? 俺の復活は……。なんだか頭がクラクラして重い。失敗したのか!?
「あれ、みんな……。俺、どうなった?」
おかしい。みんな俺の声聞こえてないんだろうか。
「もしかして、失敗? 今度こそ地獄行き?」
「き、キーチロー………」
あ、聞こえてた。良かった。けど、どうしたんだ? ベルもローズもキャラウェイさんも、セージやステビアも果てはエイダンまでみんながっちり固まって。
「どうしたの? やっぱダメ?」
「その………角………」
は? 角?
「みんなに生えてる角が何か?」
「いや、お前の………」
いやいや、俺人間ですよ? 角がどこに………。あれ………、頭が変だ。重い。
ペタペタと頭を触ると妙な違和感が………。
「ンなんじゃこりゃああああああっ!!!」
「おおおおち落ち着けキーチロー、だだだだ大丈夫だから」
「そうですよ、角ぐらい牛にも生えてます! キーチローさん!」
「とととりあえず解剖してみますか? ねっ?」
「キャラウェイさん! 落ち着いて! キーチロー! ここは一旦その邪心を……」
「ローズさんは……少し黙ってて……」
「魔族になったキーチロー君も……いい……」
ちょちょちょっと待って待って、人間として蘇るはずだったんだが!? 俺に生えてるこの角はどう見てもデボラやキャラウェイさんと同じ巻き角なんだが!? おまけになんだこの湧き上がる力は! 使ったことも無い魔法や魔法陣が頭に浮かんでくるんだが!?
「何これぇ? どういう事ぉ?」
俺は半泣きになりながら辺りを見回した。誰か今の状況をヒントでもいいから教えて欲しい。
「キーチローさんの肉体は半分魔族、半分人間、少し天使といった具合になりましたね」
フェニックスのエイダンが思いがけず俺の疑問に答えてくれた。
「なんでそんなことに……」
「元々、キーチローさんの体には天使と悪魔のハーフの血が混じっていました」
「それって……」
俺はチラリとデボラの顔を見た。向こうも視線に気が付いたようで、覚悟を決めたのか大きな深呼吸をした。
「我の血だな」
「えっ、デボラ様って……」
「天使と悪魔のハーフ……存在は聞いたことあるけど」
「そ、それで?」
俺は急かすようにエイダンに続きを促した。
「そう、元々死ぬ前からキーチローさんの体には三界の血が流れるという特殊な状態で、復活そのものが不安定だったのですが、どういう訳か肉体の器よりも魂が強化されておりまして。そのままだと肉体が砕け散る恐れがあったのです」
さすがにこれは、俺にも心当たりがあった。あの特訓は無駄じゃなかった……じゃなくてえらいことになるところだった。ラファエルさんめ……。
「で、急遽我の血で肉体の方の強化を図ったわけだのだが……」
「魔族と天使の成分が濃くなり、いよいよ人間を超越した何かになってしまったという訳です」
「どうやって生きていったらいいんだ……」
俺は頭を抱えたがそこにはもっと頭を抱えたくなる現実が二本伸びていた。
「ひょっとして、魔法も使えたりするのかな?」
俺は試しにいつもデボラやベルがやっているように人間の姿へ(角を隠すだけだが)変身してみた。
念じただけで変われた。角が消えた。
「これなら、まあ、安心……か?」
「とにかく、今のキーチローの魔力は我やキャラウェイ殿はおろかあのドラメレクすらも凌駕しておる」
「そんな非常識な力が」
「趣味趣向に変化はありますか!? キーチロー君」
キャラウェイさんが強引にカットインしてきた。
「魔族が普段何を食べてるのか知りませんが、俺は今お茶漬けが食べたいですね」
「ふむ、食事は変わりなさそうと。ドラゴンの肉を食べたいと思いますか?」
「いや、言葉で聞いただけではちょっと……食べたいとは思いませんね」
実際、目の前で焼かれたらおいしいと思ってしまうのかも。前にデボラが飲んでいた地獄の酒も今なら飲めるか?
「ともかく、肉体のベースは人間プラス悪魔と言ったところでしょう。大半は人間の様ですが」
「天使要素はどこに?」
「髪が半分金色になってます。はい、鏡」
「んなあああああああっ!! フツメンなのにコレはイタいいいい!!」
「そそそそんなことはないぞ! キーチロー! 良く似合っておる!」
サヨナラ……平穏な? 暮らし……。こんにちは……地獄の日々……。あれ、変身さえできればあんまり今までと変わりないか……。
「これからどうしよう」
「その魔力なら我はもう、魔王を名乗ることは出来ん。今日からお前が魔王だ」
そんなことを急に言われても強さ以外にも色々あるだろ……。
「大体、地獄の知識なんて……」
言いかけて俺ははたと気付いてしまった。もしかして【
「ちょっと試しにみんなの地獄に関する知識を【
「うむ、良いぞ!」
「ええ、構いませんわ」
「恋愛に関する記憶は盗まないでね!」
「私も持っている知識を授けましょう」
「今まで……読んだ本の……情報は……全て頭に……残ってます……」
「僕も今まで見てきた生物や地獄の豆知識あげるよ!」
割とみんな簡単に明け渡してくれるんだよなぁ……。ローズの恋愛に関する記憶は生々しそうで嫌だが。
「ありがとう、じゃあ【
あ、ヤバい。すごい勢いで情報が流れ込んでくる。地獄の常識、作法、場所、魔法、人、鬼、魔族、相関、食べ物、種族、生物、さ、酒の種類!? 閻魔、裁き、神、歴史、敵、あああああああああああああ……。
「あああああああああ」
「だ、大丈夫か!? キーチロー!」
あああああああああ……。
「キーチローさん!?」
「だ、だい、大丈夫……」
「とても大丈夫そうには見えませんが?」
「いや、本当に大丈夫です。もう、大丈夫」
「そうか、ならいいが……」
うん、もう大丈夫だ。俺はドラメレクを滅ぼし、魔王になれる。大丈夫。その方法をもう、持ってる。
「デボラ、俺はもう人間でも魔族でも天使でもない」
「ああ、済まない」
「俺が、魔王になるとしたら、ドラメレクとの戦いは避けられない」
「そうだな」
「今度は俺も力になれる」
「力になるどころか地獄でも随一の実力者だと思うぞ」
「だから、無事にドラメレクを倒したら一緒に住もう」
「ああ……そうだな…………ええ!?」
もう、種族なんか気にしなくていいや。人間界でも地獄でも好きな方で暮らそう。
その両方だっていい。モヤモヤが吹っ切れた気がする。
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