地獄の45丁目 モフ同盟、爆誕
頭が割れるように痛い。というかベッドから起きようとしても意識しか起き上がらない。天井は45°の回転を繰り返し、無理に起き上がれば吐き気がとめどなく襲ってくる。新手の魔法攻撃を受けているに違いない。
夜中に大量の汗をかいたらしく、喉の渇きは限界を突破していた。炎系魔法の使い手が居るに違いない。
だが、客観的に現状を総合するとこれは二日酔い、という事になるのだろう。酒を飲めるようになってからは何度か襲われたことがある。ただ、今までと一つ違うのは、自分の部屋に気配がして、その何者かが台所に立っているという点だ。
鼻歌交じりにご丁寧にエプロンまで着けて新妻の演出だろうか。頭の角だけが場違いに縦に揺れている。
「デボラ……?」
「おお、目が覚めたか! キーチロー!」
昨日、ベルと広瀬さんと飲んだところまでは覚えているがどうやって家に帰ったかという記憶がスッポリ抜け落ちていた。
「うぅ……気持ち悪い」
「深酒とは感心せんな。ましてや酒に飲まれるなど言語道断!」
「何? その恰好と今作っているものは」
「これか? これはマンドラゴラの味噌汁とアルラウネの漬物、それにご飯を炊いてみた」
確かに毒消しは有効かもしれないが、主な副作用が催淫なのだが。
「安心しろ! お前が名付けたマンドラゴラとアルラウネからそれぞれ少しずつ提供してもらった! 副作用のない完璧な万能薬としてキャラウェイ殿のお墨付きだ!」
「へえ、魔力が増えたら物凄い副作用になるかと思いきや。うぷ」
「我が人間界の事を研究して作った初めての料理だ! 食すがよい!」
「ありがとう……、デボラ。ありがとう……ヤックン、ヒロコ……。いただきます……!」
……不味い。
どうしたらいいんだ。
材料か? 味付けか? 苦い味噌汁なんて存在するのか?
漬物はどうだ。
……超しょっぱい。
これ人間界の材料使ってるよな?
「これ、ヤックンとヒロコ以外は地獄の材料って使ってるの?」
「いや? 後は人間界の材料と調味料と調理法だが? 口に合わないか?」
「そんなことは無い! おいしいよ!」
こういう時、はっきりと指摘する男がモテボーイなのだろうか。それとも黙って飲み込むのが
俺は
☆☆☆
何とか全部食べ切った。不思議な事にというか、主に薬草たちのおかげだろうが酔いはすっかり覚めていた。
「ごちそうさまでした!」
「いい食べっぷりだったぞ! キーチロー! さあ、酔いも覚めたところであるかアディア・ボックスへ行こう! 何やらローズ達がまた相談があるらしい」
ローズからの相談となると大したことは無さそうだが、特にやることもないので一応行ってみる事にした。
「私達、モフモフを求めています!」
……やっぱり大したことじゃなかった。帰ってもう一眠りしよう。と帰りかけた俺をローズが腕を引っ張って止めてくる。
「キーチローはこちら側の人間なはずよ!」
あちら側にはステビアとセージの姿もあった。
「……まあ、ダママとかアルミラージ触るのは好きだけど」
「ダママは最近モフモフ感が薄くなりました! プニプニはしてるけどモフモフ感は薄くなりました!」
「繰り返さなくても伝わってるから」
「現状、モフモフと言えるのはアルミラージ君のみです! 足りない! 足りない!」
「まあ、カップリングの季節だしアルミラージを探してくるのも悪くないな」
多分、多分だがデボラはデートの口実を探している。それぐらい最近、露骨になってきた。その証拠にソワソワとこちらを見ている。
「アルミラージもいいですが、これを見てください!」
ローズが『地獄生物大全』のとあるページを指差しながら俺達の前に突き出す。
「近すぎて見えないのでちょっと離して」
「これ! フェンリル!」
ついにきたか……! モフモフの先駆けにして総本山、魔狼フェンリル……。これほど中二感とモフ感を併せ持つ生物が他に存在しただろうか。否。断じて否である。
「私……、暇なときは片っ端から図鑑をめくっては色んな動物たちと遊ぶところを妄想していたんです……!」
ローズの勢いに隠れていたステビアが普段より少し声を張って主張してきた。
「その中でもモフモフ生物とのふれあいは最高で……イヘヘ」
あれ、ここにも変なスイッチあったかな? 大丈夫かな? ステビアさん?
「フェンリルですか……。確かにモフモフはしてるかもしれませんが、そんなに愛想のいい生物じゃありませんよ?」
ダママとじゃれながら遠巻きに参加していたキャラウェイさんがアドバイザーとして的確なご意見をくれた。
「で、でもこっちには言葉が通うキーチローがおるしな。どうだろう、見に行くだけでも……、なっ?」
「伝承によると神の腕を引きちぎるようなヤバい奴みたいなのですが……」
「伝承は伝承! その目で見たものだけを信じよ!」
今回も結局、押し切られる形で地獄行が決まった。ちょっと軽々しく行きすぎなんじゃないかとも思うが、地獄の箱庭を任されているのだからしょうがないと言えばしょうがない。アニメや小説の流され系主人公の気持ちが今ならよくわかる。
「じゃあ、今回の目標はアルミラージ(♀)とフェンリルという事で宜しいですか?」
「ああ! 構わん(別に何でも)!」
「あ、じゃあ今回は私もついて行っていいですか? 久しぶりに地獄の方でやりたい作業もあるし。お二人の仲を邪魔するようで悪いですが」
まさかの魔王パーティー再びである。これなら先代魔王のちょっかいやフェンリルも怖くないぞ!
「断る理由はありません! 我とて任務の一環として弁えておりますゆえ」
「では、宜しくお願い致します」
「あの……、今回は私も宜しいですか?」
意外なようなそうでもないような、なんとベルまで手を上げた。
「襲撃者の事もありますし、お役に立てるかどうかわかりませんが……」
「ふむ。今回は他の生き物を連れて歩くと警戒されるかもしれんしな。では、同行を許す!」
「私達モフ同盟は、アルカディア・ボックスで皆様とフェンリルの帰りを待ってまーす! みんなのお世話は心配しないでください!」
今回の冒険パーティーは隙がない。完璧な布陣だ。毎回これで連れて行ってほしいぐらいだ。
という訳で、行くぞ! モフモフ探検隊!
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