(閑話)一方、その頃アルカディア・ボックスでは

 ベルとローズは途方に暮れていた。次から次へと送られてくる新種の魔物たち。いったいどれほどのペースで魔王様とキーチローは捕まえているのだろうか。そして、この先どれほど送られてくるのだろうか。一番のネックは、作戦会議でもローズが指摘していた、


『キーチローが居ないと会話が出来ない』


 という点である。


 あの時点では、魔王様の対応もみんなの反応も間違ってはいなかったのだろう。そう、



<ローズ視点>

「ううう……。デボラ様とキーチローが出発してまだ数時間だよねぇ……」

「正確には3時間と46分ですね」


「ナニこの魔物の転送ペースは……」

「それほどに今、地獄は末期的な状況という事でしょう」


「でも、最初に送られてきたのヘルアントだよ? こんなのうちの庭にもいるよぉ」

「デボラ様の崇高なお志を疑ってはいけません。何か深きお考えあってのことでしょう」


 ベルったら相変わらずデボラ様一筋なんだから。堅くて融通の利かない、おまけに羞恥心のあるサキュバスなんてベルぐらいのもんでしょ。


「ところで、このアリさん達なんか訴えてるみたいだけど、どうする?」

「キーチローさんがいない事には何とも……。とりあえずエサを与えておけば問題ないのでは?」


 えーと。ヘルアントのエサって言ったら虫の死体とかだよね。虫の死体……。いけない! 私ったら! カブタン達の事見ちゃった。危うく触手のツッコミが来るところでした。


「キーチローさんの冷蔵庫から魚肉ソーセージでも持ってきましょう。確か肉は食べられたはずです」

「じゃあ、私取ってきまーす!」


 急いでキーチローの部屋に行ってゆっくり戻ってこなくちゃ!



<ベル視点>

「……全く。世話から逃げましたね」

「ん? 6番フィールドが輝き始めたという事は新種の魔物!?」


 なんという早いペース。やはりデボラ様は真に地獄の行く末を考えておられる。私も側近としてデボラ様の所業を支えてゆかなくては。とりあえず、6番フィールドに行ってみましょう。


「これは……ヒクイドリですか。なんと美しい羽の色。やはり地獄にはくれないがよく映える」


 おや? さっきまでの魔獣や魔植物と違って理性的というか……。今こちらに向かってお辞儀をしたような……?


「あなた方は納得済みでこちらに来たようですね。キーチローさんの能力ちからのおかげかしら?」


 ふむ。通じたのかどうか知りませんが、羽を広げて大層友好的ではないですか。


 しかし……この羽の色。デボラ様の御髪おぐしを思い出す、何とも綺麗な羽の色! こっそりデボちゃんって呼んじゃおうかな。いや、ディアちゃんの方がいいかな。


 …………何を考えているのだ私は! なんたる不敬! あるじの名前をあろうことか飼育生物に付けるとは! ああ、しかしあの私の心を射抜くような瞳……。

燃え盛る炎のような意志を感じてしまう……。ディアちゃんて呼んだらダメかな……。嗚呼、駄目駄目。絶対に駄目! いくらなんでも意図が透けすぎる!


「何をこんなところでうずくまってモゾモゾしてるの?」


「ひゃいっ!」


「ひゃいって……。はい、魚肉ソーセージとってきたわよ!」

「ん゛っ! ゴホンッ! ありがとう。ローズ」


「いやーん! 新しい魔物、すっごいキレイ! この羽は……モフモフ? モフモフって言っていいかしら! サワサワしていいかしら!!」


 ……どうにか怪しまれずに済んだみたいですね。


「ローズ、どうもあなたのテンションに少し引いているようです。ナデナデ程度に留めておいてください」


「それにしても増える速度大丈夫かしらね」

「後でデボラ様に連絡しましょう。地獄の生物が増えるのは一向に構いませんが、作業員は二人のままですからね」

「そうね。作業員も今回の旅でひっ捕らえて送ってもらいましょう! フィールド⑦はイケメン作業員でお願いします! って」


 ……。ここまで欲望に忠実なのはある意味うらやましい感性だわ。


「それは自分で送ってください。さ、作業を続けますよ!」

「はーい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る