ヒロタアツシ その4

 くどいようだが、僕にレイプ願望はない。本当である。誰かを好きこのんで傷つけたいと思ったことはないし、そういう性的嗜好もない。僕はサディストではない。

 しかし、例えば、例えばの話だ、これは言い訳なのだが、言い訳でしかないのだが、もし目の前に好きな女の子がいて、その女の子と何のリスクもなく、また何の責任もなくセックスできるとしたらどうだろうか? こんな仮定をするのは馬鹿馬鹿しいことだが、無人島問題だとかトロッコ問題だとか、人間というのは往々にして馬鹿らしい仮定をするものだ。それで話を戻すが、僕はこの仮定に対してはイエスと回答する。もちろんそうでない人もいるにはいるだろう。倫理観とか社会性とか良心とか、そういう感情を名付ける単語はたくさんあるが、それらは結局のところ法律だとかルールだとかいうものによって、刷り込まれ、何となく受け入れているものだ。それが悪いというわけではない。そういうしがらみのおかげで、僕は人権というものを持ち、それなりに平和な生活を送れるのである。だが、人間というのは極論を言えば動物の一種に過ぎない。多くの生き物の生存目的は、言わずもがな繁殖だ。繁殖するために食べ、繁殖するために眠り、繁殖するために生きる。その根本部分は人間も変わらない。普段は理性の鎖で縛りつけられているが、その鎖が解き放たれる瞬間があるとしたら、遮二無二繁殖行為に励むだろう。それが自分の遺伝子の意味だと信じて。

 と、こんなわけのわからないことをひたすら羅列したところで、何も擁護はできないし、誰も共感してくれはしないだろう。僕だって、僕以外がこんな戯言をのたまわっていたら反吐が出るような気持ちになる。そもそも、人間は動物の一種と言い、自分もその中に含めるのなら、こんな屁理屈は無用なのである。真に本能で生きる者は、くだらない理屈など労しないのだから。

 だから正直に言おう。僕はセックスがしたい。相手の気持ちなど考えず、自分の感情だけを優先した乱暴なセックスがしたい。愛はいらない。心はいらない。それは妄想で十分だ。あるいはいつかどこかの、別の誰かのもので十分だ。僕が今欲しいのは、この暴れんばかりの性的欲求を注ぎ込める穴だ。それが目の前にある。それが目の前にあるのなら――。

 僕は自分の前に置かれている柔らかな尻を掴み、そして愛液が滝のように垂れ流れる陰唇に、自分の膨らみ切った陰茎をゆっくり沈めた。ずぶずぶと生暖かい肉がまとわりついていく感触がある。僕は声を漏らしそうになりながら、さらに力を込めて深く沈める。

 背徳感が弾けて快感になり、罪悪感が呑み込まれて悦楽になる。糖分を脳で直接節酒するような甘い痺れが全身を走って、それを貪るように腰を振り始める。右へ左へ上へ下へ、前へ後ろへ押しては引いて。ストーブの中に突っ込まれたみたいに身体が熱い。汗が湧き水の如く出てきて、ウナギに化けたようにハナヤさんに触れているところや擦っているところがぬるぬるする。しかし、そんなことは些細なことだ。もっと食いたい。もっと飲みたい。このまま糖尿病で死んでもいい。だからもっともっともっと――。

 奥から湧き上がってくるものが破裂して、自分の身体から生命の一部が飛び出していくのがわかる。それを思いっきりハナヤさんの中に注ぎ込む。ピンク色の強烈な火花が、ばちばちと目の奥に散った。

 僕の脳裏に、笑顔のハナヤさんがいた。どこにもいない、僕の頭の中にしかいない、僕の恋人のハナヤさんがいた。彼女は僕を抱き締めた。僕も彼女を抱き締めた。夕焼けの教室で、見晴らしのいい高台で、澄んだ小川の淵で。ダサいフォントの、ハッピーエンドという文字列が宙を踊る。そして祝福を告げるような明るいクラッシック音。合間に、一瞬だけ現実のハナヤさんの悲痛な声が混じった気がしたけれど、それはトランペットの音で掻き消えた。

 僕はその音や光景に酔い痴れながら、そっと目を瞑った。

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