第7話 空席に呟く女
よりによって、死んだ彼女の写真を忘れるか?――
俺は
その目には少し怒りのような、
俺の視線に気づいたのか、女がこちらを見たが、俺と目が合うと
この女は、木村を知っている……? きっと木村に用があってここに来たのだ。
俺はそう思った。
しかし、木村の方は女のことは知らないようすだった。
いったいこの女、誰なんだろうか……?
俺は、彼女の反応から何か情報を得ようと、木村と会話を続けることにした。
「でも、
「まぁ、しばらくは実家の農業の手伝いでもしますよ」
「本当にそれでいいのか?」
これは純粋に俺の思うところで、本当に
「もう、応援してくれる人もいないですから……」
そう言った木村の表情は笑いながらもどこか
ふいに女が何か
一応できますけど……、そんなふうに聞こえた。
女の方を見たが、あいかわらずスマホに夢中だった。
きっと独り言だったのだろう。
木村に視線を戻した。
どうやら木村には女が呟いたのが聞こえなかったらしく、会話の途中で急に女の方を見た俺を不思議そうな目で見ていた。
視界の隅で女が、ハッと顔を上げたので、俺は反射的に再び女の方を見た。
俺と目が合うと女は慌てて自分の口に軽く手をあてた。
「あ、わたし……なんか独り言を……すみません」
女は少し恥ずかしそうに、しまった、というような表情をしていた。
俺が軽く
「え? なになに? 君、ここ初めてだよね? 学生?」
すると、女は少し困ったような顔をして、自分の隣、つまり木村と自分の間の誰もいない空間を
女に代わって俺が答えた。
「大学生だってさ。すぐそこの……」
俺はドアの方角へ頭を振った。
「へー、あー……そうなんだ。あの大学、頭いいんでしょ?」
木村は本気で関心したようすで頭の悪い質問をした。
「あー、いいえ、そんなことは……」
「え、このへんに住んでるの?」
木村に
女が返事をしないでいると木村が何か言おうとしたので、俺は止めた。
「おい、ちょっと木村……」
木村は俺の方を見ると、次の言葉を待つようにキョトンとして俺を見つめた。
俺の意を
「おい、失礼だぞ」
「あーそっか、そっか、あー、すみません」
木村がそう言ってあやまったのとほぼ同時だった。
女がまた自分の隣の空間に向かって小さく呟いた。
「大丈夫ですよ。タイプじゃないんで……」
木村にもこの呟きは聞こえたようで、
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