浮かんだノイズ
吉良 朗
第1話 黒いワンピースの女
あの妙な女が現れたのは果たして
ふと、そんなことを考えると、俺の頭の中でそれまでのことが目まぐるしくよぎっていった……
× × ×
客のいない薄暗い店内。カウンターテーブルの向こうでは木村がカールスバーグの
一応、グラスも用意してやったのだが、木村はそれには手をつけなかった。俺がグラスを
スツールに腰をかけた木村の
「ホントに実家、帰るのか?」
「え? あー……まぁ」
俺の問いに、木村は後ろめたいというような歯切れの悪い返事をした。
「続けていく意味わかんなくなっちゃったんで……」
そう言って
その時、木村の
俺が
「すみません。店も
「あ、いや。なんかここ
俺が言うと、木村はまた何か勘違いしたようで驚いた表情をした。
「いや、きっと一時的なだけですよ。ほら、
木村は言いかけたのを
「俺がいなくなったら、今度は逆にまた客が入るようになったりして」
そう言って木村は笑うと、そこで、俺の視線の先に気づき、自分の
「どうかしました?」
木村は位置が変わっていることに気づいていないのか、特に気にする様子もなく、スーツケースのハンドルを
その時だった。
入り口のドアが開く音がした。
俺が振り返ると、ドアの所に黒いワンピースを着た、
少なくともそれが客であるかそれ以外か、くらいは直感的に見分けられるようには……
彼女が客ではないことはすぐに分かった。
しかし、だからといって準備中を
ただ、俺はなぜか、
後になって思えば、俺自身が俺自身へ
俺は
「すみません、まだ準備中なんですよ」
俺は言いながら、
そうか、もう8周年か。ということは……
来年は開店十年目になるのか――
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