第6話 Little good story
メリー ライブ パレードが終わって年末まで少し時間が出来た。
わたしも結構お仕事が増えてきたけど、まだ年末のテレビに呼ばれるほどではないので地方含めあちこちのライブに遠征してる。
今回は名古屋まで行ってきた。
若手の歌手がいっぱい出演するライブ。クリスマスライブだ。
マネージャーさんがずっと着いてきてくれるから一人で行ってこいじゃないだけマシなのかな。
今のご時世、仕事の連絡はスマホで、あとは現地まで自力で行けって所も多いらしい。
地方だと交通費とか宿泊費とかかかるしまだ16歳のわたし一人だと予約も無しに泊めてくれるホテルもなかなか無い。
家出少女だって補導とかされても困るし、お母さんに心配もかけたく無い。
流石にマンガ喫茶とかは避けたいかな。日中に時間潰しで入った事はあるけど深夜だと怖い。
知らない男性とかがいっぱいなあんなところじゃ眠れないしね。
映画とかで家出少年とかが利用してるの見たことあるけど、わたしは無理かなぁ。
「次は年末年越しライブだから。幸楽苑ホールで31日。本番18時リハ14時ね。どうしよっか、事務所にお昼集合か現地13時がいいかどっちがいい?」
「ああ、それなら現地13時が助かります。わたしのおうちからだとどっちも似たような距離なので」
「じゃぁそういう事で。そこまでは数日オフだけど何か予定はあるの?」
「あはは、何にもないんですよー。寂しい人生なんです」
「まみちゃんまだ若いのに。そういうのは僕みたいな年齢になってからいう台詞かな」
「えー。時田さんってまだ若いしかっこいいからモテるでしょ?」
「出会いがないんだよね。まさかタレントに手を出す訳にもいかないし」
まじめなんだ。時田さん。
優しいしけっこうハンサムだし好きになる子おおい気がするのに。
「まみちゃんこそ。うちは恋愛ダメなんて言わないからさ。まあいいヤツ捕まえてよ」
「そうですよねぇ。恋愛禁止条例とか無いですしうちの事務所。そういう面ではいい事務所なんですけどねー」
「そういう面だけ?」
「あは。いい事務所ですよー。わたしアオイプロで良かったって思ってます」
これは本音。
弱小だしお金の力で新人売り出しとかはあんまりしないけど、それでもやっぱりいい事務所。社長もちょっと変だけどいい人だし。
この半年、いろんなお仕事させられたけど、みんないい思い出だ。
「じゃぁ一旦事務所に戻って社長に報告、で解散ね。会社に戻るまでが遠征だからねー」
「はい。マネージャー」
駅のホームでそんな話をして、わたしたちはアオイプロの事務所に向かった。
タクシーを拾って移動。
どうやら多分自社ビル? 葵ビルの地下駐車場までタクシーで乗り付け、エレベーターに乗る。
15階にある事務所の入り口に到着したところで、わたしはひとつ深呼吸をして。
「栗宮まみ、ただいま帰りましたー」
そう大きな声で挨拶しつつ扉を開けた。
☆
「お疲れ様。まみ、仕事が入ったぞ」
え?
すっごくきになる笑顔でそう話す裕貴社長。何企んでるんだか。
「テレビ局からオファーが入った。石山市の猫助けのエピソードな、あれを今年のいい話スペシャルで取り上げて貰えることになった。現地から住人とまみの再会を生で流すそうだ」
えーーーー?
ちょっとまって、そんないかにもなヤラセ……。
「わたし、いやです……。そんな事のためにあの子助けたんじゃありません」
「わがまま言うんじゃ無い。もう受けた仕事だ。変更はない」
「そんな……」
「それになまみ、これは別に俺が仕掛けた話とかじゃないんだぞ? 住人からの投稿があってテレビ局が動いたんだ」
「え……?」
「手紙のコピーも貰ってある。ほらこれ見てみろ」
そう言ってA4サイズの紙をひらっとよこす社長。
そこには。
差出人はあの時の農家さんのお兄さんっぽい。しづおばあちゃんがわたしに感謝してて会いたがってる、いい話スペシャルで取り上げてくれって。
そんな事が書かれてた。
あは。
わたしがやったことは間違ってなかった。
ちゃんと役にたってたんだって、そう思ったら少し心が温かくなった。
じわっと涙が滲み、でも、我慢する。
「おまえなー、俺のこと疑ってたろ? 別に売名とかでやらせさせようとか思ってないから。信じろ?」
「ありがとうございます社長……、ごめんなさい」
どこまで本当かちょっとわからない社長だけど、でも。
うん。
わたしこの事務所で良かった。
甘いかもだけどでも。
うん。がんばろう。
いい話スペシャルは29日の日曜日。
そのあと年越しライブが31日。
今年もあとわずか。
ほんと、みんな、ありがとう。
わたしは元気に頑張ります!
End
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