第108話 エピローグ、その9~レーナの望み~
「話は全て聞いておった。突然の発言を許して頂きたい。異世界の神よ。儂の名はユーリィ・エルフィンドワーフ。カナタの友であり、そこにいる三人の姉でもある。つまり、儂もまた第五世代じゃ。管理者と成る身分には不足はなかろう?」
ユーリィはヴィジョンを通してこの交渉に口を挟んだ。
いや、黙っていられなくなった、と言うのが一番近い表現かも知れない。
「あら、お久しぶりですね。ユーリィ。貴女は記憶にないかも知れないけれど、私達は貴女が幼い頃に、何度か会っているのですよ。何しろ私は貴女の叔母にあたるのですから。どうか、ユーリィも皆さんも、私の事はルクレシア叔母様と呼んで下さるかしら?」
ルクレシアはニコニコとした表情でユーリィに答えた。
「で、ではルクレシア叔母上。どうじゃろうか?儂が管理者と成り、この世界の礎と成ろうではないか。それがこの危機を最も無難に乗り切る方法だと儂は考えておる」
ユーリィはルクレシアに対してそう言った。
「そうですねぇ。恐らくはそれが一番無難な選択なのですが…残念ながら貴女は今回の交渉からは外れているのですよ。交渉に関係のない者が口を挟んだ非礼は見逃しますが、交渉自体に口を出すのは認めません」
ルクレシアは優しい笑顔のまま厳しい事を言った。
「では私の願いをユーリィ様が管理者と成る事に使いましょう」
そんな二人の会話を聞いて、レーナがすかさず答えた。
「あら、それならば話は成立ね。ではユーリィ・エルフィンドワーフ。貴女をこの世界の代理管理権限者と致します。…はい、手続きは終了ですよ。ユーリィ、貴女には後程、管理者としての規則を教えます。ですが今は一先ずこの交渉が終わるまで発言を禁止します」
そう言ってルクレシアはユーリィの発言権を奪った。
ここまで、一連の会話を黙って聞いていたカナはコッソリとアルファとベータに言葉を掛けた。
「ねぇ?私は元々冒険者ではないから、今まで何も言わずに成り行きを見守っていたけど…。貴女達のお母様は報酬を始めから渡す気が無いように感じるのだけれども、これは気のせいかしら?」
カナは自分の疑問を率直に二人に聞いた。
「気のせいではない」
ベータが首を横に振り、端的に答えた。
「そうね、その通りよ。お母様は事実を言いつつも、全て自分の予定調和通りに事を進めているわ。…これが管理者と言う存在のやり方なのよ」
アルファもまたため息と共に答えた。
アルファもベータも、決してルクレシアを悪人だとは思っていない。
しかし、管理者と言う存在はこのような者であると痛いほどに分かっていた。
だからこそ、アルファは自分がルクレシアと交渉しようと思っていたのだ。
だが、ベータはルクレシアがわざとこの状況を作り出した事を見抜いていた。
それが何を意味するのかは分からない。
ただ、これもまた試練の一つなのではないかと予想していた。
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