第74話 カナとカナタの物語、その3~成すべき事~
ベータはカナの話をずっと黙って聞いていた。
その顔は一見無表情だが、実は心の中では酷く動揺していた。
実はベータは、カナが召喚された直後から、母親であるルクレシアの指示によってカナタの様子を見張っていた。
初めこそ理由が分からず、ルクレシアの命令に不満を感じたが、段々とベータはこの男に興味を抱くようになっていった。
最初の一週間位は、カナタはひたすらカナの両親を気遣い、励ましていた。
「カナは絶対に生きています。あいつがそんな簡単に死ぬようなタマじゃないと、二人とも分かっているでしょう?」
カナタはカナの両親にそんな事を言っていた。
さらに一ヶ月が過ぎた頃、カナの両親は流石に諦め始めているように思われた。
しかし、カナタはそれでも励まし続けていた。
「俺が、必ず、カナを見つけます。それこそが俺の使命だと思っています。どうか、二人とも諦めないで下さい」
カナタの宣言に、カナの両親は半分呆れながらも、感謝しているように見えた。
そんな時にベータはルクレシアから呼び出しを受けた。
そこで初めて、カナが未来の地球を左右する、重要人物だと明らかにされた。
そして、彼女を救出する為の作戦を実行するつもりだと、打ち明けられたのだ。
その作戦を遂行するにあたって、誰が相応しいか訪ねられた時に、ベータは迷わずカナタを推した。
ルクレシアはその言葉を聞いて、一瞬、暗い陰りのような表情を見せた。
そして、ベータは再びカナタの様子を見張るように指令を受けた。
もう少し様子を見て、本当に彼が最適なのか判断する、と言われたのだ。
そこからさらに数ヶ月経った頃、カナタは何か調べ物をするようになっていた。
ネットを検索したり、図書館や大学で文献を読んだり、はたまた、実際にどこかへ調査に出掛けたりしていた。
ベータは遂にカナタも諦めたのだろうかと最初は思っていた。
しかし、カナタの行動を見張る内にベータはある共通点に気付いた。
この人間は何の根拠も無く行動している訳ではない。
彼は、謎の失踪を遂げた過去の人物を調べている。
それも、的確に真相に近付きつつある。
ベータはここで初めてカナタの行動に驚く事になった。
カナタは何を元に理解しているのか分からないが、確実に過去に異世界へと召喚された人物の事を調べていたのだ。
その事に気付いたベータは戦慄した。
何故そんな途方も無い真相に単なる人間が近付ける?
たかが人間が、理解の出来る範疇では無いはず。
そうして、やがて、カナタは事件の真相を掴む為に、海外の事例まで調べるようになった。
それも、ピンポイントで、召喚された人間の事件ばかりだった。
ベータはここで初めて、自らの判断でルクレシアに報告を行った。
あの人間は確実に気付いている。
おそらくこのままでは、そう遠くない未来に、真相へと辿り着く。
ベータにはその理由など検討も付かなかった。
だがカナタの行動には、何故か確信めいたものがあった。
その行動にはまるで迷いの様なものを感じないのだ。
これは近いうちに、事件を調べる為に、海外へも旅立つだろう。
そんな報告を聞いたルクレシアの反応は意外なものであった。
「そう、やはり彼は真相を知る運命にあるのね」
ルクレシアはため息を吐きながら、諦めたような表情をしていた。
「ベータ、覚えておきなさい。決して人間を侮ってはいけません。彼らは私達を滅ぼす可能性すら秘めた危険な相手よ」
そう言ってルクレシアは、カナを救出する作戦の実行者をカナタにすると決めた。
だがルクレシアはこの時、奇妙な事も言っていたのだ。
「これは偶然?それとも必然なのかしら?おそらく彼女だけが召喚されたのなら、彼は気付かなかったはずよ。何故こんなにも複雑な事になったのかしら」
ルクレシアの独り言は、当時のベータには理解できなかった。
だが、今のベータにはその言葉の意味が分かる。
ベータとカナは徐々に同調しつつあった。
そしてベータには“視えて”しまったのだ。
これらは全て予定されていた未来。
これこそが、彼らの運命。
ならば、私は、自分の出来る事を行うまで。
「成すべき事を成せ」
ベータの脳裏にカナタの言葉が思い浮かんだ。
そして、ベータは覚悟を決めた。
“私も成すべき事を成す”
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