第64話 神のいない世界、その2~システム宣誓モード移行~
「つまり、管理者の血を混ぜる。それがカミルを生贄にした理由か?」
カナタはギルゴマに問い質した。
「生贄とは人聞きが悪いね。それもまた人間が勝手に言い出した物だよ。あれは単に管理者の世界…人間の言葉で言うなら、神の世界へと人間を送還する儀式に過ぎない。おおよそ生贄の儀式とは程遠い物だよ」
ギルゴマは首を横に振って答えた。
「はんっ、結局は現世へ戻れない片道切符だろうが。家族にしてみれば死んだも同然だ」
「それは価値観の相違と言うモノだよ。少なくともカミルはこの儀式に自ら望んでいた。当時はゴードンすらも消極的ではあったが、反対はしなかった」
「信仰の対象がそう望めば、信者は叶えるさ。それが偽りの神だと知らなければな!」
「偽りの神かね。クックック、君は本当に愉快な男だ。では君に聞こう。神とは何だと思うかね?」
「少なくともお前じゃない事は知っているさ」
「ふむ、では質問を変えようか。君は管理者とは神だと思うかね?」
「違うな。お前達は文字通り、単なる管理者だ。所詮はシステムに縛られた不自由な生き物さ。この世界を管理運営する役割を与えられただけの者達…神とは程遠い存在だ」
「素晴らしい!やはり君は面白い男だ。今まで誰もその様な事を言った人間はいないよ。そして…私と同じ答えだ。どうやら私達は考え方が似ているようだね」
「ちっ、狂った神もどきに似ているなど、迷惑な話だ」
「クックック、まあそう邪険にする事もあるまい。これでも私は君をとても評価しているのだから」
「はん、有り難がって涙でも流せば良いのか?」
「いやいや、その必要はないよ。ただ…もう少し話に付き合ってくれたまえ。是非とも君に答えてもらいたい質問がある」
「悪いがお前と禅問答する気はない。ここからは俺とお前の殺し合いだ。俺かお前、どちらにしても必ずどちらかが死ぬ。死者と交わす言葉に何の意味がある?!」
「なるほどね。確かに君の言う通りだ。だが…私にとっては中々に興味深い事でねぇ。それに、君を殺してしまった後では、誰も答えてくれそうな相手がいなくなってしまうんだよ」
「そんな事は知るか。お前の戯言に付き合って、俺に何のメリットがある?!」
「そうだね。御礼に君の仲間も含めて、苦しまずに殺してあげると言うのはどうかね?」
「ふざけるな!」
「いやいや、これでも真剣に取引を持ち掛けているのだがねぇ。ただ君達を生かしておく訳にはいかないのも事実でね。実は良い取引方法が見いだせずに、これでも困っているのだよ」
「…ならば、管理者の名において、俺を殺すまでは誰にも手を出さないと誓えるか?」
「ほう、まさか君から提案してくれるとは、望外の喜びだよ。ちなみにそれは私自身の手で、と言う意味で良いかね?流石に魔物達までは約束できないよ?」
「…良いだろう」
「それと、こんな事は言いたくないのだが、この誓いの後に君が必死に逃げ回り、世界の延命措置を取るなどと言ったみっともない真似はしないと約束できるかね?」
「あぁ、心配するな。俺は必ず、ここでお前を倒す」
「ふむ、何が狙いか知らないが、この約束で君に何の得があるのかね?君が死んだ後にはみんな死ぬ事になるだけなのだがねぇ?」
「…少なくとも、俺がそれを見る事はないだろう?俺の死んだ後の事まで面倒は見れないさ。だが生きている間は微力を尽くすさ」
「ほう、君らしい答えとでも言えば良いかな?良かろう、では管理者の名において誓う。君を殺すまで、私は何人たりともこの手で殺める事はない!」
ギルゴマがそう宣言した瞬間に、ピキンという音が鳴り響き、システムの声が聞こえた。
「管理者ノ宣誓ガ行ワレマシタ。しすてむ宣誓もーどヘ移行シマス」
カナタはそれを聞いてホッと一息を吐いた。
実は先程、カナタの張った結界が、破れた感覚があったのだ。
つまりカナ達は、こちらに向かってくる可能性が高かった。
あの距離で今のカナ達ならば、例え魔物が居ようとも、数十分とは掛からないだろう。
だがこれでカナタが死なない限り、カナ達に危険が及ぶ事は無くなった。
その前に決着を付けたかったが、これで保険は出来た。
ならばこの戯言に付き合ってやろうじゃないか。
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