第14話 決戦前日譚、その4~黒のアリシア~
中央冒険者組合本部の受付カウンター前にはテレヴィジョンが設置されていた。
今日も多くの冒険者が朝から依頼を確認していたがテレヴィジョンから放送を合図する音楽が流れ出した瞬間にほとんどの冒険者がテレヴィジョンの前へと集まり出した。
このテレヴィジョンが始まると受付業務担当の人間達はホッと息を吐く。
あぁこれで当分は暇になる。
受付担当のカリナは笑顔を崩さないようにしながらも直前までクレームを言っていた冒険者がテレヴィジョンへと向かうのを見て、心の中で「二度とくるな」と悪態を吐いていた。
そして、自分もテレヴィジョンへと視線を移す。
テレヴィジョンにはアリシアが超高速で動く姿が映されていた。
その残像のような素早い動きに歓声が沸く。
ベテラン職員であるカリナは、ふふ、と軽く笑いながら言った。
「しかしこのパーティーも随分と有名になったわね、アリシアちゃんなんてしょっちゅう泣き言を言いに来てたんだけどねぇ」
「え?先輩、あのパーティーの担当だったんですか?」
「うーん、このパーティーというか…前のパーティーの担当だった、が近いのかしら?今はアリシアちゃんがリーダーみたいな感じになってるからねぇ」
「え?前は違ったんですか?」
「少なくとも私の担当していた時のアリシアちゃんはこのパーティーでは一番下っ端だったわよ。まあもう随分と昔の話だけれどもね」
「え?あの黒のアリシアが一番下っ端ですか?!信じられない」
「黒のアリシアねぇ、あなたなんでアリシアちゃんがそう呼ばれているか知ってる?」
「え?動きが速すぎて見えなくて、まるで黒い残像が動いているみたいだからじゃないんですか?」
「うーん、それはそれで正解なんだけどねぇ、まあ元々はあの子、自分の師匠にあたる当時のパーティーリーダーに憧れて彼のマネをして装備を黒一色に染めたのよ、で付いた二つ名が昔は黒のスピードスターだったの」
「え?スピードスターですか?聞いた事ないですね」
「うん、一瞬だったからねぇ。やっと私にも二つ名が付いたって喜んでいるあの子に対して当時のリーダーが黒いスピードスターって台所に出る“アレ”を思い出すな、ってボソッと言ってね、それからあの子その二つ名で呼ばれる事を嫌がっちゃって」
「あー、私も憧れの人からそんな感想言われたら嫌ですね」
「で、無理矢理二つ名を変えたの当時は自分から黒のアリシアって名乗るようにしてたわね」
「へぇー、なんだか色々と意外な話ですね、あの黒のアリシアがですか?」
後の世に「黒のアリシア」として名を残す彼女が、一時期「黒のスピードスター」と呼ばれていた事を知る人間は少ない。
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