報告書69「姿なき捕食者、罠を仕掛ける者仕掛けられる者について」
自分は安全な位置から狙いを付けた相手を痛ぶる。陰湿な性格そのままな戦い方をするアシオの野郎が立ちはだかるBH社本社ビル50階サーバー室。目的のエクスカベーターの制御装置はもうすぐそこのはずなのに、こんな所でマゴついてられるか!
「くっそう、相変わらず卑怯な奴だぜ!位置が分からなきゃ攻撃できねぇ!」
「そうね。さっきのブラスターの射線から、多分上方の中二階にいるんだと思うんだけど……」
「視覚は誤魔化せても、完全に実体を消せたりはしないはずだ。チトセ、超音波を出して反響定位で位置を探るとかできないのか?」
「私はコウモリでも無きゃイルカでも無いんだからできるわけないでしょ!」
くっ……こんな時、イクノさんと通信さえ繋がっていれば何か知恵を貸してもらえたのに。と、チトセの頭に赤い点が昇っていく……これは……
「危ない!」
「きゃっ!」
慌ててチトセを突き飛ばし、間一髪ブラスターの炸裂弾を避けさせる。続く雨のように降り注ぐ射撃の中をチトセと2人で走り抜ける。なんで向こうからはこちらの位置は筒抜けなんだ!?
「ほらほらどうした?グズはどこにいてもグズのようだな。貴様みたいな使えない雨男は視界に入るだけで不愉快なんだ、とっととくたばりやがれ!」
くっそう!好き放題言いやがって!何とか部屋の角に滑り込み、壁に張り付く。が、ここだってすぐに奴の攻撃に晒されるだろう。八龍開眼の射線分析でも、常に移動しているらしく位置が読めねえ。何が雨男だ……不愉快なのはお前の方だっての!雨男、雨男……?
「チトセ!焼夷手榴弾はあるか!?」
「え?えっ、えぇ。あんま使わないけど一発だけ持って来てるわよ」
「それを中二階に投げるんだ!」
「はぁ!?そんな事したって向こうの正確な位置も分からないんだから……」
「いいから投げろ!それで奴の居場所が見えてくる!」
「あーはいはい!分かったわよ!」
チトセにより投擲された焼夷手榴弾は、中二階に乗って2、3回跳ねた後、辺り一面を火の海にした。これでいい。ここは設備の整った本社ビル内……室内の炎を探知したスプリンクラーが発動し、室内に発生した雨の歪みで奴の姿が見えてくるって寸法だ!
しかし俺の思惑は、勢いよく天井から吹き出される白い消火ガスのように霧散してしまった。
「……あれ?スプリンクラーじゃない?」
「こんなサーバー室のような精密機械置いてある部屋にスプリンクラーなんて設置してあるわけないでしょ!このバカバカ!」
ぎゃふん!言われてみればその通りだ……もー俺のバカバカ!とそこへガスの向こうから人影がこちらに走ってくるのが見えた。キ影を構え、間合いに入った所を振り下ろす。
「わー待て待て!わしじゃ!」
「ふっ!?」
「イクノ!なんであんたがここにいるのよ!」
そこにいたのは紛れも無い、我が社が誇る天才技術者兼オペレーターのイクノさんであった。危うく斬り捨てる所だった!額に装着されたゴーグルは少し割ってしまったが……
「ふぅ、こちらは機動鎧甲も装着してない生身じゃからの。部屋の中に入るタイミングを見計らってたんじゃが、ちょうど良くガスが出てきての。お陰でここまで来れたわけじゃ」
「そうじゃなくて、なんであんたがこんな最前線にまで来たのか聞いてるのよ!私言ったよね!?危ないのは絶対に無しだって!」
「う、うむ……特別階に入った所で通信ができなくなってしまっての……遠隔操作ができない以上、制御装置を止めるにはわし自ら出向く必要があったのじゃ……」
「だからって、もしあんたの身に何かあったらどうするのよ……!」
「まぁまぁ落ち着けチトセ。どの道イクノさんの手助けが必要だったのは確かなんだから。危険なら俺達が守ればいい、だろ?」
「むぅぅ……分かったわよ……イクノ、帰ったらお説教だからね」
未だ納得できない本心を、無理やり押し込めてるかのようにむくれるチトセ。それだけイクノさんの身を案じる気持ちが強いという事なのだろう。
「所で、じゃ。ガスが出てから敵からの攻撃が無くなったとは思わんかの?」
「そう言えば確かに……さっきまでどこに隠れてもすぐに見つかってしまってたのに」
「恐らく、奴はこの部屋にある監視カメラの情報を得ていてそれでこちらの位置を把握していたのじゃ。なのでガスが晴れたら天井や壁の監視カメラをまずは壊すのじゃ!」
「なるほど……!さすがはイクノさん!俺の斬撃では届かない、チトセ、頼んだぞ!」
「分かったわよ……その代わりあんたは死んでもイクノを守りなさいよ!」
「あったぼうよ!」
「あっ、じゃが破壊する時一つ頼みがあるんじゃが……」
ゴニョゴニョと耳打ちをするイクノさん。横で聞いていたが、さすがは天才技術者だ!
焼夷手榴弾が噴き出した炎が完全に消化されたためか、ガスの噴射が止まり、それにより晴れていく視界。そこへ部屋の中央部に移動していたチトセによる監視カメラの破壊が始まった。次々と正確な射撃で撃ち落とされていく監視カメラ。比例するかのように落ちるアシオからの攻撃頻度。どうやらイクノさんの予想はドンピシャのようだ。
「くそっ!だが俺の姿を見つけられなきゃ所詮は悪足掻きに過ぎないってわけだ!」
と、撃ち漏らした監視カメラが俺とイクノさんの映像を捉えた。舌舐めずりをするアシオ、俺の後頭部に赤い点が光った。
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