報告書61「作戦会議、見返したい世界があるからについて」
付近に転がっていたかつてゴミ箱であったものを横倒しにし、その上に地図を映した大型端末を置き、周囲を俺とチトセ、それに自衛軍の面々で囲んでの慌ただしい作戦会議となった。
「MM社の協力で、付近のビルに潜む遠距離タイプのリソーサーの位置が判明した。ここと、ここ、そしてここだ。ヒトハチの火砲と対戦車誘導弾"ライカホウ"を使えば、制圧に時間は掛かるまい」
「そんでもって私達が飛び出してこっち側にドレイクを誘導するから、その隙にあんた達はこっちから隔壁に向かうってわけ。何か質問は?」
いつの間にか作戦会議を仕切るチトセだが、まぁ仕方ない。こん中で一番漢気あるのがこいつなんだからな。
「じゃあ俺、質問いいすか」
「はい、イワミくんどうぞ」
「ドレイクはデータに載っているとはいえ量も少なく、おまけに俺はやつと戦うのは今日が初めてなんだ。だから実際にやりあった自衛軍の方々に、やつの戦闘時の状況について教えてもらいたい」
「俺たちだってやりあった、なんて御大層な事はしてねぇぜ」
「あれはまさに虐殺だった……いきなり急降下してきてヒトハチの2号車を潰したと思いきや、それを弄ぶかのように放り投げやがったんだ」
「そんで援護に出たフタフタ3号車の連中を見るや、凄まじい熱気が流れたと思った次の瞬間、高く浮かび上がって空からの火炎放射で……あっという間に火の海だった……」
「そうだったのか……それは辛い事を聞いてしまってすまない」
浮かび上がる直前に熱気が流れた、か……鳥は飛び立つ際に地面を蹴る反動を利用し、翼竜も上昇気流に乗るもんだが……これは何かタネがある気がするな。
「それじゃほら、隊長さん!最後に締めの一言お願いね!」
「うっ、む?よし、それでは開始は5分後だ!各員装備を点検しろ!ヒトハチとガンナー班は位置につけ!」
チトセにいきなり締めを振られてちょっとビックリしていたが、そこは自衛軍の隊長ともなる人、なかなかキビキビと指示を飛ばすじゃないか。さてと、俺もこれから相変わらず建物を揺らしているあの怪物とやり合うんだ、準備をするか……装備と心とな。
自衛軍の車輌備え付けの急速充電器のコードを機動鎧甲に繋ぎ、ヒトマルとキ影の刀身に異常が無いか入念に確かめる。これからこいつらに命を預けるんだ、念入りにチェックするのに越した事はあるまい。と、そこへチトセが隣にやってきた。
「……」
「……」
チラチラとこちらを見る、何かもの言いたげな顔のくせに押し黙ってコードを機動鎧甲に繋いでやがる。なんとなく不気味な沈黙に耐え切れず、先に声を上げてしまったのは俺の方だった。
「……何だよ」
「べっつに〜?ただ……」
「ただ……何だよ」
「なーんであんたが、あの自衛軍達と力を合わせて戦おう!って言い出さないでこんな完全な自殺作戦に真っ先に賛成したのか気になって、ね」
「なんでって……そりゃ……見返したいんだろ?」
「……え?」
「この国を、国防省を、社会を、この世の中すべてを、見返したいだろ。言わなかったが、その気持ち、寸分違わず俺も同じなんでね」
「……」
「まっ、とにかくこの任務を俺たちの手で成功させて、あのいけ好かない大佐の鼻を明かしてやろうぜ!」
「あったりまえじゃない!」
2人して大笑いした後、すっかり気を良くした俺は、先程のちょっとした"思いつき"をチトセに話したところ、意外にも大乗り気。ダメで元々、いっちょやってみるかという話になった。
それから間もなくして、作戦決行時間間際となった。既に配置についている機動戦闘車とガンナー班からやや離れた場所に位置取った俺たち2人だが、そこへ1人の自衛軍兵士が駆け寄ってきた。
「チトセさん!頼まれてたこれ!持ってきましたよ!」
そう言って差し出してきたのは、自衛軍正式採用装備の携帯型対空誘導弾"カセン"だった。
「ありがとう!……ところで支払いはツケでお願いできるかしら」
「もちろんお金なんか取りませんよ!使ってやって下さい!」
「って自衛軍から装備品を巻き上げるなんていいのかチトセ。後で隊長さんに怒られないか?」
「巻き上げるなんて聞こえが悪いわね。あんたの思いつきに付き合うには丁度良いと思ってね、ちょっとお願いしたのよ」
「はい!そしたらMM社はもう戦友だから遠慮なく提供しろって、言い出したのは隊長なんですから!」
なんとまあ、随分と自衛軍も柔らかくなったもんだな。
「あらロハとは気前がいいのね。そんじゃ遠慮なくいただいておくわ♪」
タダと聞いた途端にこの笑顔だ。全く相変わらずだな。
「さっきのチトセさん、超カッコ良かったって、みんな言ってました!頑張ってください!」
大きく手を振り自らの配置場所へと戻って行く自衛軍兵士。チトセめ、この短期間にもうファンを作ったのか。外面だけは良い女だからな。内面まで知ってる男は俺ぐらいだろうが。
そしてついに時間となった。キ影を握り込む手にも自然と力が入る。
「ってぇー!」
隊長さんの合図と共に、火を噴く機動戦闘車の火砲に自衛軍ガンナー班の重火器。その威力たるや凄まじく、向かいの駅ビルを外壁ごと吹き飛ばす勢いだ。これには潜んでいるリソーサーもひとたまりも無いだろう。と思ったのも束の間、あのドレイクが身体を屈めてこちらを覗き込んできやがった。カメラアイから走る不気味な赤い光が俺たちを捉える。完全に位置バレしたようだ。
「それじゃ、私達も行くとしますか」
「おうよ!」
チトセの銃撃を合図に、俺達は駆け出した。作戦どおりドレイクはこちらに気を取られ、追いかけてきやがった。後はそうだな、運を天に、命を刀に、そして勝利を仲間に懸けるだけだ。
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