報告書33「再会、昨日の友は今日の敵について」
案内板上に見つけた西武池袋の近くで、西口という名前のものを探すと西武口という名の出口を見つけた。ここまで西をアピールしているんだ、これがチトセの言っていた西口で間違いあるまい。行き方は……なんだ、すぐそこじゃないか。"幻惑の"池袋駅ダンジョンなんて大層な名前が付いてる割には東口の直ぐそこに西口があるなんて、案外単純な構造をしているんだな。
目的地の場所が無事分かったんで、後は向かうだけだ。それにしても通路の向こう側のチトセやササヤさんの場所からすると、かなり回り込まないと行けないようだし、こりゃ俺の方が先に到着するだろうな。
そんな事を考えながら目的地の西武口に向かい歩いていると、天井の看板に丸ノ内線という文字が見えてきた。よしよし、徐々に目的地に近付いているな。理由は知らないがリソーサーも出ないし、なんとかなりそう……
「ッ!?」
先の広場に何やら気配を感じ、慌てて壁際に身を寄せて気配を消す。大型リソーサーか?それとも……ゆっくりと角から頭を出し様子を伺うと、そこには5人かそこらの人影に、何やら大型の掘削機?のような機械が見えた。人影はどれも機動鎧甲を身に付け、手には武器を持つあたりスペキュレイターに間違い無いだろうが、問題はスキャナーに本来表示されるはずの所属が不明となっている点だ。
「立ち入り禁止のはずの駅ダンジョンに、所属不明のスペキュレイターか……まともな連中じゃないのは確かだな」
そう言えば、千葉駅ダンジョンで遭遇した奴もスキャナーでは所属不明だったな……と言う事は……
正体を探ろうと思い、スキャナーのズーム機能を使ったところで思わず息が止まった。いや、息どころじゃない、その瞬間時間が止まった気すらした。人影の中、俺がよく知っている、忘れたくても忘れられない顔を見つけたからだ。
「主任!エクスカベーターの設置、完了しました」
「そのまま起動準備にかかれ」
「はっ!」
「準備ができ次第起動しろ。その間に掃除のやり残しをする」
「はっ?」
そう言うと、そいつはゆっくりとこちらを向き、感情のこもらない声を投げかけてきた。
「そこにいるのは分かっている。隠れても無駄だ。出てこい」
その言葉に反応し、周りのスペキュレイターもこちらに武器を構える。どうやら見つかってしまったらしい。だが、今更そんな事はどうでも良かった。どの道こちらから出て行くつもりだったのだからな。立ち上がり、ゆっくりと角から姿を現す。その男は俺の顔を見たと言うのに、驚きすらもしていないようだった。
「亡霊があの世から戻ってきたか。それも随分とご立派な腕を付けてな」
「ヒシカリ……!貴様一体ここで何をしているんだ!?」
その男、かつて共にリソーサーへの復讐を誓い、養成学校では技を競い、そして初めての駅ダンジョンでの任務時に俺の片腕を落としたヒシカリが、確かにそこにいた。まるで死んだように濁った目とその下には青いクマ、肌の色は悪く荒れ果て、口元には無精髭とまるで別人のような顔となってはいたが。
「何って、"仕事"だよ」
あくまでも冷静に答えるヒシカリ。自らの手で殺したはずのかつての友、それが生きて目の前に現れたのになんだこの無反応さは?
「その"仕事"ってのが何なのか聞いてるんだよ!」
「そいつは教えられないな」
武器を持った因縁の者同士、誰がどう見ても一触即発の場なのに、全くそれにそぐわない受け答えを続けるヒシカリ。その態度に業を煮やしたのは、俺よりも先にヒシカリ側のスペキュレイターの方だった。
「班長、目撃者を残すなと通達が来ています」
「分かっている。お前らはそこで見ていろ」
「しかし!」
「俺の指示が不満か?」
「い、いえ……」
それを聞き、押し黙ってしまうスペキュレイター。どうやらヒシカリは今では人を動かす立場となっているようだ。動かすと言っても、暴力で動かすクソなやり方のようだが。
「俺を斬って随分と偉くなったようだな。すっかりクソに成り下がりやがって」
「なにしろ斬ったのはお前だけじゃないからな」
そう言いながら、両腰の大刀小刀をそれぞれ抜き、青い雷光を刀身に走らせるも、だらりと力を抜き、構えようともしないヒシカリ。こいつこの俺を、小学校からの親友だった俺を、同じ夢を追った俺を斬った事を何とも思っていやがらねぇ。
「ふざけやがって……」
人を斬りすぎて何とも思わなくなったってのか?
かつて親友だと思っていたのは俺だけだったのか?
「ふざけやがって!」
腰の10式制刀乙型を勢いよく抜いて構える。刃元から切っ先に向かって走り、耳をつんざくような鳴き声を上げる紫電が、俺の怒りを代弁しているかのようだった。
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