報告書28「特別な才能、短所は長所の裏返しな件について」
キメラの突進をもろに受け、チトセとササヤさんがいるすぐ側の連絡橋の手すりまで吹き飛ばされ、打ち付けられてしまった。ねじ曲がった手すりと、スキャナーに映し出される損傷警告、そしてこの全身に走る激痛が否応無くも威力を思い知らせて来る。
「ちょっと、大丈夫!?」
「なんとかな……ぐぅっ!」
刀を地面に突き立てなんとか立ち上がるが、もうフラフラだ。こんな痛みはゴリアテ以来だが、それにしても鬼雨を正面から食らわしたのに貫通出来ないなんて……!
とにかく次の攻撃に備えようと当のキメラに体を向けるが、何故か距離はとったまま。しかし、背中の山羊の頭からは甲高い音と共に閃光が漏れ出していた。あれは……?
<<いかん!キメラのコード作成、つまりは詠唱の開始とエネルギーの充填を観測した!恐らくソーサラーの術に類似したもので広範囲を攻撃するつもりじゃ!今すぐ退避するのじゃ!>>
マジかよ……リソーサーが術だと!?伝説種のリソーサーはどこまで常識外れなんだ!
「チトセ!イクノさんの話聞こえただろ!ササヤさんを連れてもっと遠くに逃げるんだ!」
「はぁっ!?あんたはどうすんのよ!」
「俺は一か八かあの山羊頭に鬼雨を喰らわせて攻撃を止める!」
「今失敗したばかりじゃない!あんた1人じゃ無理よ!」
「しかし他に方法は……」
「……!あるわ……あるわよ!もっと確実な方法が」
そう言うとチトセはササヤさんの正面に向き直り、じっとその目を見て話し始めたが、その顔は今まで見た事ないくらい大真面目だ。
「ササヤさん、あの馬鹿に支援を。術のためのエネルギーが集まるあの山羊頭を破壊できれば、行き場のないエネルギーが逆流して大ダメージが与えられる。今がチャンスよ」
「そんな……無理です!スキャナーが使えないから対象の選択も出来ないし、パワーアシストもまだ直ってないからロッドも上手く操作出来ないんですよ!?」
「そうだチトセ!タダでさえササヤさんは支援のコード失敗が多いのに……」
それを聞き、目を瞑り少し俯き、何か考えたような素振りを見せるチトセ。そしてゆっくりと言葉を押し出した。
「これは重大な秘密事項だから、本当は本人にも教えたく無かったんだけど……ササヤさんあなたには普通の人には無い特別な能力があるの」
「へ……?特別な能力……?」
おいおいなんだよ、そんな話今の今まで聞いてないぞ。
「あなた小さい時から何で入退院を繰り返してたと思う?」
「それは身体が弱いから……」
「違うわ。あなたにはリソーサーを含めた電子機器から発せられる信号を知覚でき、そしてロッド無しでコードを作り出す事ができる特別な能力を持っていたから、検査入院が幾度もされてきたのよ」
突然のチトセの言葉にポカーンとするササヤさん。と俺。
「って、変異人種じゃないかそれ!?リソーサーの出現に影響を受けて、変異した人間が存在するという、夢物語だろ!」
変異人種とは即ち特殊能力を持った人間だが、立証された実例も無い空想科学に過ぎない話だというのが、世間での真っ当な評価だ。
「それが実在するのよ。今私達の目の前にね。相当苦労したけどイクノのハッキングでそれを知った私は、何とかかんとかウチへの採用面接に漕ぎ着けたって訳」
「えっと、あっ……つまり…?」
「じゃあつまり、他にも志望者がいないんじゃなくて、最初からササヤさんだけを呼んでたのか……」
「そういう事。だからササヤさん、あなたは支援するのにスキャナーもロッドも必要ないのよ。むしろある方が邪魔でコード作成が上手く出来ないくらいだから」
つまり今まで失敗ばかりだったのはそれが原因で……?
「えっと……でも……私そんな事言われても……」
明らかに戸惑い、困惑しているササヤさん。そりゃそうだこんな話、急にされても理解できるはずが無い。
「さっきのキャンサー戦を思い出して。あれも無意識にキャンサーの信号を読み取ることで動きを予測して、最適な支援をしたのよ」
……!あれはそう言う事だったのか!
<<キメラのエネルギー充填完了じゃ!後は詠唱が終われば術が発動するぞ!充填されているエネルギー量から、発動したら周辺一帯が消し飛ぶのは避けられん!>>
「時間が無いわ!ぶっつけ本番よ!ササヤさん目を瞑って!」
「えっあっ、はい!」
「そしてこんな棒切れ捨てる!」
そう言うと、ササヤさんの持っていた、ヒーラーの命とも言えるロッドを奪い取り放り投げるチトセ。おいおいマジかよ……
「そして心に念じるの、あなたのやりたい支援を!それを口から発するの、あなたの言葉で!はいやって!」
「えぇ!?えーっとえーっと……」
無茶苦茶すぎる……そんなんで本当に……
「すっ、姿も形も無いが確かに在りしモノよ!な、汝を統べ制する者の名において命じる!この者を癒し、その苦痛を和らげよ!」
ササヤさんのコード作成……いや中二病じみた詠唱が終わると同時に、俺の機動鎧甲の応急処置機能に自己修復機能が活性化、言葉通りに痛みも、損傷警告も消えたのだった。
「嘘だろ……!」
だって手には何も持たず、支援対象を見ても無いんだぜ……!
「その調子よ!はい次!ボヤボヤしてると私達みんな消炭よ!」
「は、はいっ!この者に腕力強化を!脚力強化を!!あぁもう全部強化!!!それからバッテリーも限界以上に充填して下さい!!!!」
顔を真っ赤にし、両手を突き出しすササヤさん。そして俺のスキャナー画面は各種強化の表示で埋め尽くされた。しゅごい……こんなの初めてだ……特にバッテリー充電量が限界を超えて過充電状態だ。そうだ!これならっ!
俺は刀を鞘型の充電器に納め、急速充電機能をオンにした。すると思った通りすぐに過充電状態となり、鞘の外からでも刀身から発せられた青いプラズマ波が溢れ出てくるのが分かるほどになった。
「ちょっ、ちょっと大丈夫なのそれ」
「あわわ……」
「2人とも離れていてくれ」
<<キメラの詠唱が完了!来るぞ!>>
もってくれよ……ヒトマル!
「過充電居合斬り……!」
柄を持つ手に力が入る。そして右足で踏み込むと同時に、一思いに鞘から抜き去った。
「……夕立ぃぃい!」
キメラの術が発動するその瞬間、ヒトマルの刀身が鞘から走ると同時に放たれた極太のエネルギー刃が、その山羊頭を吹き飛ばしただけでなく、遥か彼方の天を割り、二つに分かれた曇り空の隙間からは、青い空と輝く太陽が顔を覗かせていた。
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