報告書18「上野駅ダンジョン、これで駅ダンジョン複雑さランクに載らない件について」
正体不明機に搭乗していた謎の人物(と言っても十中八九BH社の社員だろうが)をひっ捕らえた俺たちは、通報により駆けつけた特殊資源管理庁の職員に引き渡し、ひと段落を得た。隔離地域周辺に展開する自衛軍に引き渡さなかったのは、駅ダンジョン内での企業やスペキュレイターの揉め事については、経産省外局の特殊資源管理庁の管轄で、国防省下の自衛軍の管轄ではないからだ。ここら辺の管轄区分は本当にややこしい。
それにしても、これほどの社員の不祥事が発覚したんだ、BH社と言えども大きな損害は免れまい。期せずして俺の復讐は着々と成っているとのだと思うと、全くニヤつきが止まらない。
気分も上々なので、今日も格納庫の一角にあるトレーニング室での練習にも身が入る。あれから俺は、気爆噴射片手突き・鬼雨をより実戦用に仕上げようと思いひたすら練習したり、新技を試してみたりと入り浸っていたのだ。
「ついにやったわよ私達!」
物凄い勢いで上階から格納庫に入ってくるなり、ハイテンションで騒ぎ立てるチトセ。キリがいいので俺も一旦休憩にするか。どの道チトセが来てはまともに練習も出来ないからな。そう思い、掛けてあったタオルで体の汗を拭う。
「ふぅ、そんなに慌ててどうした?」
「ついにやったのよ私達!さっきS.O.U.R.CEからメールが来てね、私達の3級への昇格が認められたそうよ!」
「本当か!?やったな!」
全部で7段階あるスペキュレイターランク、その内の3級は上から数えてまだ5つ目だが、普通の人は準2級まで、良くて2級と言われるこの業界ではなかなかの快挙だ。
「これでより難易度の高い任務も受注できるようになるわ!よーし、この調子でバンバン稼いでビシバシランクを上げるわよ!」
「おー!」
調子に乗ってハイタッチを決めたりと騒ぎ立てる俺とチトセを横目に、小さくため息を吐きながら機動鎧甲の整備をするイクノさんだけが、今思えば冷静に物事を見ていたんだと思う。
それから少ししてーー。憧れのトナイエリア、上野駅ダンジョン内部。俺とチトセは駅構内で半壊した改札機の影に身を潜めていた。
「だから言っただろ!2人でトータスの資源回収なんて出来るわけないって!!」
「はぁ!?あんたが言ったのは"相手がなんだろうが、俺の突きに貫けない物は無い!"でしょ!?」
「そうは言ったが、リソーサーの中でもトップクラスの硬さの甲羅を持つトータスが相手だって知ってれば、こんな所来なかったっ!」
「それはあんたが余裕ぶっこいてブリーフィングを聞かなかったのが悪いんでしょ!」
<<いい加減にするのじゃ2人とも!次弾来るぞ!>>
「あぁ、くそっ!移動するぞ!」
「分かってるわよ!」
慌てて改札機の影から飛び出しとにかく走る。後ろを振り返ると、亀型リソーサー・トータスが甲羅の後部にある重迫撃砲からプラズマ弾が次々上空へと撃ち出されていた。
<<着弾!隠れるのじゃ!>>
「ちょっとちょっと!」
「わぁー待て待てもう少しだ!」
チトセと2人でなんとか近くのかつてびゅうだった一角に飛び込み、応接台の裏に隠れた。その直後、激しい爆発音が幾度も鳴り響き、抉れたコンクリートやら破壊された奇妙な銅像の破片やらが飛んできた。
「ゴホッ、ゴホッ!」
頭に落ちてくる砂埃を払いつつ何とか起き上がり、顔を覗かせると、改札機を押し潰しながらトータスがこちらに向かってきてやがる。
「これからどうするのよ!こう砲弾を雨霰と降らされちゃ、近づく事もできないじゃない!」
「……そうだ!奴はデカくて動きが鈍い!だからどこか天井が低くて障害物が多い所に誘い込めば、迫撃砲も使えないし、横にも回り込めるしで勝ち目はある!」
「なるほど、なら丁度いい場所があるわ!不忍改札の先の不忍通路よ!その通路は天井が低く柱も多い、打ってつけの場所よ!そこに誘い込みましょう」
しのばず……なんだって?
「そのシノバズ?ってのはどっちの方角にあるんだ?」
「はぁ!?あんたどこの田舎者よ!今中央改札の近くにいるんだから不忍口はあっち!そんでパンダ橋挟んで公園口はあっちで、入谷口があっちよ!」
チュウオウ……シノバズ……何で出口にこんなバラエティ豊かな名前がついてるんだ?パンダ橋って?川でもあるのか?チトセがあっちこっちと指差すが皆目分からない。
「すまないがもう一回言ってくれないか?ケイセイグチがあっちで……」
「上野駅ダンジョン京成エリアは出て外よ!だけど今それは関係ない!」
チトセの説明を聞きながらスキャナーのマップを見ても各階が立体的に入り組んでいて全然分からない。と言うかM2階って何だ?これがトシンエリアの駅ダンジョンだと言うのか……
「なにこの程度で青ざめてるのよ。言っとくけど池袋駅ダンジョン、渋谷駅ダンジョンそして新宿駅ダンジョンなんかに比べたらここなんて構造は単純な方よ」
「嘘だろ……」
ここの、この構造が単純だと?単純ってのは俺の実家の最寄駅みたいな単線単一ホーム単一出口という構造を言うんだよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます