報告書8「カタナとヨロイ、新たに手に入れた装備品について」

 早速今日からこのマーヴェリック・マイニング社(MM社)で業務をすることになった俺は、チトセに出陣準備をするよう言われて一階格納庫まで降りて来た。BH社でのあの初任務、あれはノーカンだ。だから今日が俺にとっての本当の初任務、もうやるっきゃない。そうとなれば準備を……準備?と言うか俺、あれから着の身着のまま、何も持たずにここに来たんだったぞ、そう言えば。


 準備しようにも商売道具がない事に気付き、呆然としていると、チトセが向かって来るのが見えた。もう準備を終えたのか、銀色の地に黒を配し、肩部分の装甲には赤い逆三角形を威した機動鎧甲に身を包み、右目には四角い片眼鏡型のスキャナーを装着したその姿はなかなか凛々しかった。それにしても、ああ胸が大きいと機動鎧甲の装着も大変だろうな。


「ちょっとどこ見てるのよ、全く。大体何よ、まだ準備できてないの?今日はデスクワークでもやるつもり?」


「いや、準備しようにも武器も機動鎧甲もスキャナーすらも持ってない事に今気がついて」


「はぁ!?じゃあどうやってリソーサーから資源を回収するのよ?まさか生身で戦うつもり?」


「仕方ないだろ。武器は腕ごと飛ばされ、機動鎧甲もスキャナーも壊れちまったんだから。そもそもあれ全部会社からの支給品だったし」


 俺はあの時、全てを失ったんだ。もっと優しくして欲しいものだ。


「そう言えばそうだったわね……あー、イクノー!アタッカー用の予備のヨロイってまだあったかしら?」


「ちょいと古いがあったはずじゃよ。今出してくるから待っとれ」


 古いの……か。俺も本当は自分だけのカスタムモデルを持ちたいんだが仕方ない。BH社にいた時も支給品を使ってたんだ、無一文の今の俺では贅沢は言えないだろう。


「そら持ってきたぞ。源流製作所製造GNM-07"シチリュウ"じゃ」


 そう言いながらイクノさんがリモート操作で奥から移動させてきた整備用ハンガーには、これまた黒を基調として所々龍を思わせる黄色い部分がついた機動鎧甲が固定されていた。少し埃を被っているが、なかなか悪くない見た目だ。


「中々良さそうじゃないですか。俺この意匠好きだな」


「そうじゃろうそうじゃろう。こいつは出力・防御力・バッテリー容量のバランスが取れた秀作でな。まぁ、現行世代と比べると加速装置に内蔵武器も無いし、各性能も幾分落ちるんじゃが、まだまだ現役で行ける代物じゃぞ。しかもこいつは余剰空間が多く、改造の余地が豊富でな。今は資金も資源も無いが、将来的には……」


「はーいそこまで〜改造案は資金が貯まったら考えましょう」


「それもそうじゃな。あぁそれと、お主用に左腕部分を取りはずのでちょいと待ってくれ。その義手は戦闘も十分にこなせるからの」


 義手が機動鎧甲並の出力なんて本当だろうか。今までのところ、使用感は硬い以外は正直生身の腕それ以上でもそれ以下でも無かったが。


「武器はこれ使いなさい。前に駅ダンジョンに行った時に拾ったもんだけど、起動はできたから多分まだ使えるでしょ」


 そう言って、チトセが一本の刀を投げて寄越してきた。にしても拾ったって。まぁリソーサーから装備部品が回収できるのも事実だし、あまり深くは考えないでおこう。


「てっ、これ10式制刀乙型じゃないか!こんな良い刀、本当に拾ったのか?」


「え?それいいものなの?」


「いいものもなにも、10式は5式と違って刀身に沿ってプラズマを発生させる事で切断力を上げる方式で、乙型はエネルギーを多く消費する代わりに攻撃力が高い型なんだ!いやぁ、養成学校の頃からこいつ使うのが夢だったんだよな。しかも新品同然じゃないか」


「あっそう。やっぱそれ返して。それ売ったお金を設備投資に回すから。あんたにはもっと安い中古品を買ってあげるわよ」


「もう貰ったもんねー。はい、生体認証登録もしちゃいました」


「あぁもう!代金はあんたの借金に上乗せしとくからね!」


 チトセは本当に悔しがっているようだが、構うものか。あの時もこいつさえあれば、ゴリアテだって倒せたのにな。それはちょっと言い過ぎか。


「よしよし、お前の名前は今日から10式制刀乙型改めヒトマルだ。よろしくなヒトマル!」


「あんた何言ってんの……」


 少し引いているチトセを尻目に機動鎧甲を装着し、鉢金状のスキャナーを額に取り付け、10式制刀乙型が収まった鞘形の充電器を左腰の専用プラグに接続する。こうする事で、刀に必要なエネルギーが充電される仕組みだ。これにて準備完了。後は出陣を待つばかりだ。

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