黒猫キャンディーはソーダの味。

曄灯

始まりはソーダの雨。エピソード1

 小さい頃は、ずっと信じていた。


 いつか私だけの王子さまが現れて、その人と


 ―素敵な”恋”をするのだと。—



 けれど現実はそう上手くは行かず。

 イジメに虐待、ネグレクト。そのせいで色々な所を転々としてきた私は、3年間同じ所に住んだ例もなく。もちろん、素敵な王子さまが現れるはずもなく。只々、月日は流れゆき、今日から立派なJKになる。

 そんな私が初めて3年間を共に過ごした

 暖かくも寂しい我が家と、思ってたよりも少しだけ、

 —素敵な、”恋”の物語。—








 ”永遠”なんて嘘だ。

 ”信じる”なんてデタラメだ。

 ”絶対”なんて、何処にもない。

 あるのはただ、漠然とした”個独せかい”で。

 そうだな、色に例えるとちょうどそこにある

 

    —”紫黒くろ”。— 


 ミャアー

     ・・・ピピピ・・・ピピ…

利夏りかちゃ~ん?早く起きてよー。」

   うぅ~ん・・・・・・

  ミャーア。

「おはよ。シロ。」


  双田そうだ 利夏りか

好きなものは毎朝必ず起こしてくれる黒猫のシロ。変な名前でよく変な動きをするけど、とびっきり寝起きの悪い私を根気強く起こしてくれる唯一の存在だ。


 顔についた肉球をはがしてシロを抱き、一階へ下りていくと、もうみんなが朝食を食べていた。



「おはよ。」   

いつも無口だけど、毎朝挨拶をしてくれる優人ゆきと


「うん。おはよ。」

 

利夏りかちゃんおそ~い。」

 学校では静かなのに、家ではいつも元気いっぱいの美羽みう


「うそ~ん。」

 

「もうみんな食べ終わっちゃうよ。」

根はいい子だけど、最近はめっきり反抗期の彩音あやね


「ごめんよー。」

 

「夜遅くまで彼氏と長電話してたのー?」

見るからに超陽キャの小夏こなつ


「いないの~。」

 

「「「フ~ウ♫」」」「・・・」


「 だから、いないn… 」

「や~る~♪」


「はいはい。食べたら食器片づけて早く学校行ってよー。」


「「「「はーい。」」」」


 私の家は、少し特殊とくしゅだ。ここに住んでいる皆は、本当の家族ではない。身寄りのない子、親に見捨てられた子、中には、一生モノの傷を心にも、身体にも抱えている子だっている。だけど、私みたいに家が少し複雑で、お金がなくて離れざるを得ない人もいる。

 そう。この家、”パンジーの住処すみか”は言うなれば私たち子どものシェルターのようなものだ。


「まあ、児童養護施設じどうようごしせつって言えば一括ひとくくりになるんだけど。」


「なあ~に?また妄想?早く食べないと、遅刻するよー?」


「うん。いただきます。」

 今日も、シロと一緒に朝食を食べつつ朝のニュース番組【ニコニコ☆モーニング】のお天気コーナーを観ていた。


佐伯さえきさん、ニコちゃん、今日のお天気どうなりそうかな~?』


『は~い!佐伯さえきです~。今日は昨日より少し暖かいねニコちゃん!』


『・・・うんうん。そうだね~。今日は思わず二度寝したくなるね~。春の訪れを感じます。』


『さて。今日のお天気、最高気温は27℃例年よりも少し高い模様。天気はすがすがしい程の青空が広がり、快晴となるでしょう。』・・・


「今日、雨降るよー。その予報、外れてる。傘持って行きなね~。」


「いやいや、そんな訳ないよー。」


「ほんとだってば。藤田さんね、雨だけは分かるのよー。」


「ふ~ん。そうなんだ。ご馳走さまでした。」


「ふ~ん。って。・・・絶対信じてないでしょ~。」


「行ってきます。」


「もう。はぁ~い行ってらっしゃ~い。」


 ・・・ミャ——

 当たり前のように外に出ようとする靴箱の前で待ち構えているシロをどかして学校用に新しく買った真っ白なスニーカーを取り出し、踵を踏まないようにそっと履いた。


 目の前にある重い大きなドアをゆっくりと開けて出る。


 —―《今日も一日、利夏りかが元気で、

               楽しく時を過ごすことができますように。》——


「・・・え?」

        …後ろから、優しく、暖かい声が聴こえた気がした。


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