第21話 歓楽街
カームベルそれは裏社会で大きな権威を誇っている組織だ。理由は単純である迷宮攻略者が三名も所属しているからだ。大国と言われるゼフテロス王国でさえブラッドを含め直接動かせる権限があるのはわずか二人しかいない。つまり、この組織は国と同等かそれ以上の戦力を保有する組織なのである。
今では攻略者の数が国の戦力を左右すると言われているためこの事実は妥当な判断なのだ。まあ、国に直接所属している攻略者というのはごく少数でそのほとんどが世界各地を放浪する自由人である。そのため、一概に戦えば所属攻略者の人数が多い方が勝つとも言えない。実際そのおかげで皮肉なことに生まれるが世界の平穏は保たれている。
また、カームベルには同盟関係にある組織が存在する。それが黒蟻という組織だ。黒蟻には攻略者はいないが一国の軍隊に匹敵するほどの部隊を持ち、広い人脈を生かした諜報能力や王国でも随一の商会を率いる手腕など、どれを取っても一流と言える集団だ。もしカームベルがなければ裏の世界を統べていたのは黒蟻だったかもしれないと言えるほどである。
そのためカームベルといえどないがしろにはできない。まあ、当主同士が十年来の友であるから協力関係にあるだけかもしれないがアインには知るよしもない。
そんなことを考えているうちにメモに記されている場所に付いた。そこは迷宮都市の商業区の一角にある歓楽街であった。娼館や賭場が立ち並び、表に出せない商売も行われているため一種の治外法権となっている地域でもある。
その通りをメモ通り進んでいくとひときわ大きな建物に辿り着く。そこはこの区域でも一番大きい娼館であった。黒蟻は娼館の元締めのような立場にあるため当然と言えば当然である。アインは迷わずその店に入るとすぐに黒髪の女に声を掛けられた。
「カームベルのアイン様ですね? こちらへどうぞ」
その女は店の端の方にある扉から奥の方に入っていく。アインはその後ろに付いていく。入り組んだ廊下を抜けると左右にいくつかの扉が見えてきた。女はそのうちの一つをコンコンと叩くとノブを回し、ドアを開ける。
アインは誘われるがままに中に入る。その部屋は娼館の一室というより商会の部屋のそれだった。対面にある机には山のように書類が積まれており、左右の壁際には書籍のようなものが並んでいたからだ。それに中央には来客用と思われるテーブルとソファが置かれている。そんな風に部屋を眺めいていると書類の山の中から赤い艶やかな髪を後ろで結わえた女性が顔を出す。
「初めまして。私はネロ・グラディアス。君のことはユニからよく聞いてる。合えてうれしいわ」
そう言うとアインの目の前まで近づき手を差し出してくる。
「ええ、こちらこそ黒蟻の当主に合えて光栄です」
そう答え差し出された手を軽く握り握手を交わす。
「それじゃ、本題に入ろうか。エンファ二人を呼んできてくれる?」
「かしこまりました」
エンファは軽く頭を下げると扉から出ていく。
「とりあえず、エンファが戻ってくるまで適当に話しようか。そこのソファに座ってくれる?」
アインは言われた通りソファに座り、ネロはその対面のソファに座った。
「さて、アイン君。君はこの依頼についてどこまで聞いているの?」
「皇子を暗殺すること以外は何も聞いていませんよ」
「やっぱり……。昔からそこらへん雑だからね。ユニは」
ネロは呆れたような表情を浮かべ肩をすくめる。
「仕方ないね。それじゃあなんで私たちにこの依頼が来たのかってとこから話そうか」
ネロはドレスをなびかせながら足を組み替える。スリットから見える白い肌が艶めかしい。
「ほんの一か月ほど前ね、先代皇帝がいきなり崩御したの。これがきっかけで皇子達の争いが激化したのよ。本来ならあと数年は生きているはずだった皇帝が死に遺書はなく後継者も指名されなかった。こうなれば皇帝の指名で次代の皇帝が決まるシステムの帝国は荒れるわ。当然、帝国内で最も力のある第一皇子はこれ幸いと他の候補者たちを真っ先に消しに動いたの。第二皇子と第一皇女以外はこの凶刃に倒れてしまったわ。幸いこの二人は自衛のための戦力をすぐに用意できたから難を逃れたのよ。それが私たち黒蟻というわけ。私たちの拠点は帝国内にもあるから。それで……」
ネロが話している最中こんこんという音が部屋に響く。
「来たようね。入っていいわよ」
ドアがガチャリと開くのをアインは見つめここからが本番だなと気を引き締めた。
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