第12話

 こうして俺の長い長い話が終わるまで、男は、時おり描きかけの絵を見せて確認を求めては、鉛筆を走らせ続けた。ほどなくして完成したスケッチには、俺がよく知るキャンディがいた。鉛筆画なのに、なぜか柔らかでやさしい色彩を感じる絵。震える指で差し出された紙を受け取って、長いこと見つめた。


 ああ、キャンディだ、うん、似てる、ありがとう―。


 感情が爆発しそうで、それ以上、言葉にできない。絵を丸めて"画家”を置いて歩き出した。と、そのとき男が言った。

「彼女、魅力的だねぇ。僕の作品のモデルにしたいなあ」

「…勝手にすれば?」


 俺がいい悪い言えることじゃない。キャンディは、俺のものじゃないんだから。

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