第10話
6月の雨の日。街を歩いていたキャンディに、トラックが突っ込んできた。いつもなら家にいる時刻に、なぜそこにいたのか。帰る場所を見失い、さ迷っていたのか。それは今もわからない。
派手な激突音と悲鳴は、 1ブロック先にいた俺の耳にも強く響き―その瞬間、嫌な予感が神経という神経に走り、心臓が跳ね上がった。強い不安に駆られ、音のほうへと走り出さずにいられなかった。
野次馬を押し分け掻き分け前に出た俺の目に映ったのは、仰向けに倒れ、苦しげな
―左手と左足が、無い? 喉が、ひゅうっと音を立てた。
キャンディ、あんたの足は、どこ? 可愛いパンプスを履いて、水族館デートするはずだろう? キャンディ、あんたの左手は? その薬指に、『永遠の誓い』を煌めかせるんじゃなかったのか?
俺は、
「ああ、ユキ! あたし、独りぼっちでいかなくて済むのねぇ。
あたし、あたし、運がよかった!」
あの人に、よろしく伝えて―
最後の瞬間に、彼女の中で何が起きたのか。キャンディは俺を思い出し、あいつを思い出し、その名を呼んで、逝った。
待って! 待ってよ! ねえ!! 引きつった
俺が本当の息子ならよかった。弟でもいい。年上、いや、せめて同い年だったら。そしたら、彼女を守れたかも。もしも、なんて考えても何の役にも立たないと知ってはいるけれど。
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