メタャメタャな世界
よるねむ
物語を創り始めました。
「これより世界創造計画を始めていきたいと思います!」
「いえーい! ……ってなによそれ?」
「世界創造計画というのはですね、ゼセーノ=ビジョさん。つまるところ、世界を想像して創造する、という意味ですよ。おわかりいただけますかね?」
「そんなダジャレっぽく言われても困るわね。それは名前を読んだだけでわかるわよ。そうじゃなくて、それは具体的に何をするのか聞いてるのよコノヨハ=フシギちゃん」
「なるほど、そういうわけですね。わかりました。ではでは早速始めていきたいところなのですが、その前にここがいったいどこで、私たちは何者なのか――まずはそれについて話していきましょうか」
「たしかにそうだわ。いったいここはどこなのかしら? まるですべての絵の具を紙につけて、それを混ざらないように引っ張ってできたような色とりどり――だけど混沌としたようなこの世界は」
「この世界は『無世界』と私は称しています。私たち――いえ、読者たちが住んでいる世界を『ただの世界』と称すならば、それとは異なった世界を『異世界』、そして何も存在していない世界を『無世界』と称します。そして今私たちがいるのは、その『無世界』になります」
「ふーん。なんだか固有名詞がたくさんあってわかりにくいわね。でもこの世界についてはわかったわ。ようはこの世界にはなんにも存在してないんでしょ――違うわね。私たちしか存在してないんでしょ? 空も海も大地も、そして空気でさえもここには存在してないってことよね」
「はい。そしてそんな世界にいる私たちは、いうならば神さまですね。今ここには三人の神様が存在しています。念を押すようにいいますが、三人います。その中の一人が私、コノヨハ=フシギです。腰まできれいにストレートに伸びた髪に、同じく空色の瞳。小柄でみてくれは少女ですね。年は秘密です。みなさまの想像で創造し、思う存分これからの物語を楽しんでください」
「なんだかこれから始まる映画の宣伝みたいね。そして私はゼセーノ=ビジョ。ボブカットの真っ赤な髪に真っ赤な瞳。顔は聡明で容姿端麗で、文字通り絶世の美女よ。あなたの中で一番の美女を想像して物語を楽しめばいいわ」
「物語の中ではそうでもありませんけどね――おっと失礼しました。先走るのもよくありませんね。そしていまだ一言も口を開いていないそこの人、はやく自己紹介をしてください。まだまだこれからやることはたくさんあるんですから」
「……悪い。俺は喋るのが苦手なんだ。俺の名前はシュジン=コウ。どうやら文字通りこの物語の主人公らしい。大役に俺なんかが抜擢されていいのかわからないがどうか応援してほしい。髪は黒、瞳も黒で、けっこう平凡なただの少年だ。よろしくな」
「はい。自己紹介も終わったところで早速世界創造計画を始めていきましょう。まずは世界の形を挙げてください。ちなみに私はきのこの山型にしようと思います」
「そうね……ひもキュー型とかどう? あとはねるねるね型とか!」
「いいですねいいですね。私の物語欲を刺激する発想ですね。ぐふふふふふ」
「あ、あんたその顔けっこう気持ち悪いわよ。読者がみたらドン引きよ?」
「みられないので大丈夫ですよ。それよりコウさんはどうですか? なにか思いつくものありますか?」
「そ、そうだな。三角とか四角とか……あ、ひし形なんてどうだ!」
「つまらないので却下ですね。けれど、正確によって挙げるものがこうも違うというのも個性が出て面白いですね。私、とろけてしまいそうです」
「意味のわからないこと言ってないでさっさと案を出しましょ。あ、ポンデリング型とかどう? おいしそうじゃない?」
「では間をとってたけのこの里型にしましょう。はい、決定」
「それはいったどこの間をとったのか教えてほしいところね! まあいいわ。次は何を決めるの?」
「次は私たちの設定ですね。ちなみにコウさんは勇者で決定していますので反論はありません。なので口を挟まないでください」
「わ、わかった……」
「なら私は勇者を守る女剣士がいいわ! 魔法使いもいいわね! いやでも武闘家も捨てがたい……」
「すいません本当は私たちも決定しています」
「てへぺろみたいな顔をつくらないでくれる! かわいいから余計腹立つわ! で、私の設定はなによ? 変なのだったら断固拒否するけど」
「秘密です」
「秘密ですって! まあでも、それもそれでワクワクするからありかな……それ、嫌なら役の変更ってできるのかしら?」
「できますよ。ただし、変更すると言えればですけどね」
「? ていうかあんた小悪魔みたいな表情も似合うのね。ほんと、あんたって名前みたいに不思議よね。なに考えてるかよくわかんないし」
「ありがとうございます」
「褒めてないわよ! で、他はなに決めるわけ?」
「あとは世界概要、人口、面積、種族構成などなど多々決めることはありますが、ここでつらつらと書いてもおもしろくありません。ですので、そこには触れません。あと私たちがやるのは物語に飛び込むくらいです」
「どこに飛び込むのよ?」
「なにをいってるんですかビジョさん。最初から私たちの真ん中には物語へと続く穴があるじゃないですか。気づかなかったんですか?」
「あったかしら……まぁいいわ。ここに飛び込めばいいのね?」
「はい。コウさんも準備はよろしいですか?」
「体の準備はいいが、心の準備が――っておいフシギ俺の手を引っ張るな」
「それ!」
三人が穴に入ると、それは少しずつ収縮し、いつしか消えてなくなった。
「さぁ、物語を紡いでいきましょう」
無世界に響くその声もまた、いつしか消え、あたりは静寂に包まれていた。
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