第3話 謝罪
「・・・」
オレは帰宅した後、特に何をするわけでもなくソファーにボーっと座っていた。
普段であればテレビを見たりゲームをしたりして時間をつぶすのだが、三島との出来事があり何かしようという気力は何となく起きなかった。
まさか本当に嘘告をしてくるとは・・・今後三島と顔合わせるの気まずいなぁ。まあ今まで会話したことがあったかと言われればないのだが。それでもおそらくクラスの中で一番仲会話ができる可能性が高かったのは三島なので、そんな三島と気まずくなるのに残念な気持ちがないわけではない。明日は土曜日であり学校は休みなことがちょっとした救いかな。
オレが何もしない時間を過ごしていると、手元にあったスマホがぶるるるっと振動し始める。故障か?と一瞬思ったが、どうやら電話の着信のようだ。オレに電話してくるやつとかレアすぎん?いったい誰だろう。怪訝な顔で画面を確認するとそこには「みずき」と表示されている。
んんっ?三島からの電話?もう一生話す機会などないんだろうなと思っていた相手だと・・・
無視を決め込むこともできるがおそらくもう二度とこないであろうチャンスなので勇気を出して電話に出る。乗るしかない。このビックウェーブに。
「もしも・・・」
「ごめんなさいっ!!!」
オレの言葉を遮るように三島は謝罪する。どうやら勢い良く頭を下げたらしくガサっという空気の音がこちらのスピーカーから発せられた。
「私、浅間くんにひどいことしちゃった・・・」
その声はとてもしおらしく元気がない。
これは謝罪の電話ということだろう。LINEを教えてくれと頼んできた理由が今になって分かった。オレはてっきりこのまま三島とは一言もしゃべることなく目が合いそうになれば冷たい真顔のまま全力で視線をそらされる未来を予想していたのだが・・・三島はきちんと謝ってくれた。嘘告をされてからもう数時間が経っているがその間ずっと謝ろうと思っていろいろ考えていたのだろうか。優しい三島らしい。オレだったら謝ることなく学校では避け続けちゃうな。絶対。
「いや、さっきも気にするなと言ったしそのことはもういいぞ」
「でも・・・その・・・許してくれるなんて思ってないけど謝りたくて・・・」
オレは許しの返事をしたつもりだったが届かなかったらしい。そんな余裕はないということなのだろうか。
その後もごめんなさい、ごめんなさい、と繰り返す。
そう何度も謝られるとこっちが申し訳なくなってくるな。謝罪は受けたしこの様子だと反省もしているだろう。確かに嘘告をされたときはわかっていてもメンタルに来たが、こうしてオレとしてはもう十分すぎるくらいの対応をとってもらえている。だから逆に罪悪感さえ感じてしまう。
「えーっと、オレは嘘の告白を受けたってことでいいんだよな?どうしてそんなことをしたんだ?オレは三島はそういうことをする人とは全く考えていなかったんだが・・・」
とりあえず状況整理と三島を落ち着かせるため、会話ではなく説明を求める。
「えーっとね。友達とかの間でね、そういう嘘告?みたいなのが流行ってて・・・それで友達にやってみようよって誘われちゃって・・・だから私が全部悪いの。浅間くんにはいい迷惑だよね・・・ごめんなさいっ・・・」
三島の声はさらに弱々しくなっていき、最後の方は涙声になっていた。
共犯者、というか提案者である加藤や豊島の名前は出さずあくまで自分のだけ責任にするつもりか。
三島は嘘告に対して何も考えずにいたのだろうか。オレは疑問を口にする。
「嘘告って、どういうつもりだったんだよ。今回はオレが振られただけだったがもしオレが振ったりとかしたらどうしてたんだ?」
「もともと浅間くんに嘘告だと言わないまま終わると思ってたの。私は振られてただの失恋した人になると思ってた。そしたら浅間くんがOKしてくれて、でも騙し続けるのはよくないって思ったからすぐに嘘だって言ったの。騙すのが悪いことだと思うなら最初からしなきゃよかったのに。しかも振られてたら何も言わずに終わろうとしてた。私ってずるいね・・・」
オレが三島に振られたら丸く収まると考えたばかりに状況が狂ってしまったのか。三島がずるいというのなら俺も結構ずるいことになるな。楽をするためボッチ生活をしている以上自覚がないわけではない。だからずるさの部分は触れないでおく。もうこの発想がずるいのだが。
「そうか。確かに迷惑でないとは言えないが・・・もう謝罪は受けた。もう謝らなくていいんだぞ?」
優しい声でそう呼び掛ける。
しかし、三島はその後もごめんなさい、ごめんなさい、と繰り返す。
オレはその謝罪に関してもう申し訳なさなど感じていなかった。とても自分勝手ではあるが、むしろ面倒くさい、鬱陶しいとさえ少し思っていた。こんなに謝れるとそう思ってしまう。
流石に我慢できなくなったので、少し声を張る。
「おい三島?オレの話、ちゃんと聞いてたか?もう謝らなくて大丈夫だぞ」
「ぅっ・・・?」
「謝罪っていうのは相手の怒りを鎮めるための薬みたいなもんなんだよ。謝れば相手は落ち着く。そういう効果はある。でも足りなければ効果は得られないし、逆に多すぎれば効かなかったりかえって副作用が出て余計な悪化をしたりする。オレはこれ以上三島に謝られてもいい気はしない。明らかな過剰摂取だよ。これは」
「・・・」
三島は黙ってしまった。
少し言い過ぎただろうか。ここで終わりにするつもりだったのだが、つい言及するつもりのなかったことまで聞いてしまう。
「オレさ、実は知ってたんだよ。三島が俺に嘘告してくるの」
「・・・え?」
「聞いてたんだ。昨日の文化祭の準備の話し合いの時間、三島は加藤と豊島と何かのゲームをしてて負けた人が罰ゲームをするってことになってたんだろ?それで三島は負けた。罰ゲームの嘘告っていうのは加藤たちが言い出した。それで今に至る。あと校舎裏で実はその二人がいたことも見た。まあこれくらいしか知らないが」
「なん・・・で・・・」
「加藤たちをかばってさっき名前を出さなかったのはわかる。だから加藤たちを責めたりはしない。」
「うん・・・」
「オレは三島が加藤たちと仲がいいことは知ってるし、加藤たちが三島に強制するようなことはしないと思ってる。本当にやりたくないといえばやらずに済んだんじゃないのか?」
「うん。きっとちゃんと断ればこんなことにはならなかったと思う・・・でも私全然ダメだな。そんなこと思いつきもしなかった。香織と友美は今年になって初めて友達になったから断ったら相手にされなくなっちゃうかもとか頭のどっかで思ってた。だから流されるまま今日みたいなことになっちゃったんだと思う」
ここまで言うと三島は泣き出してしまった。ひっくひっくとしゃくる音が一定の間隔をあけ聞こえてくる。
しばらくオレは泣き続ける三島とゆっくりと話し続けた。
「最後に頼みごとが二つある。守ってほしいことが一つ。してほしいことが一つなんがお願いしていいか?」
「うん・・・わかった・・・」
「・・・・・・という感じでよろしく」
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