第42話 リュージ編42
はっ……少し、落ち着かなければ。
そもそも、ニーニャさんって戦えるのか?
「欽治、どうしてニーニャさんも入ることにされているんだ?」
「どうしてなんでしょう? 僕にもわかりません」
欽治も知らないのか。
後でユーナに問いただしてみるか。
戦えもしない一般人を無理にでもクランに入れようなものなら俺が天誅をくだしてやる。
「夜も更けてきたし、儂はユーナを迎えに行くよ。リュージ君たちは先に休んでいていいからね」
「ありがとうございます。お言葉に甘えます」
その後は何事も無く、疲れていたのか床に就いたらすぐに眠ってしまった。
翌朝、家の中が誰もいないかのような静寂に包まれている。
欽治を起こしに行ったが、雪ちゃんが眠っているだけで欽治の姿は無い。
そういえば、欽治は毎朝早くから自主トレをしていたな。
今日はかなり早い時間に目が覚めたほうだが、この時間に居ないってことは欽治はどれだけ早起きなんだ?
「ふぇ……あっ、お兄ちゃん!」
「雪ちゃん、おはよう」
「お兄ちゃん、昨日お姉ちゃんとどこ行ってたの! あたしを放って行くなんて酷いよ!」
「ごめんごめん、お詫びに今度どこか遊びに行こうな」
「ぷぅ、じゃあ許してあげる」
んもう、可愛くて癒やされるぜ。
もう片方じゃなくて良かった。
「あれ? お姉ちゃんどこ――?」
「雪ちゃんも知らないのか。俺も探しているんだよ」
「じゃあ、あたし女神ちゃんを起こしてくる!」
「おう、頼む」
ユーナであろうが勝手に女の子の部屋に入るわけにはいかないからな。
欽治?
いや、男だと思ってるから気にしない。
あわよくば可愛い寝顔が見れてラッキーって思っているけど。
その際に下半身を確認しろ?
そこまでの勇気は俺にはありません。
おじさんの部屋にも誰もいない。
おじさんは夜中にユーナを迎えに行ったんだよな。
この時間なら畑か?
農民だし、おじさんにはいつもお世話になっているから手伝いくらいはするか。
畑に行くと思った通りおじさんは野菜の手入れをしている。
「おじさん、おはようございます」
「ああ、リュージくん。今日は早いね」
「手伝いますね」
「ありがとう。ユーナもこれだけしっかりしてくれたらねぇ」
「そういえば、昨晩迎えに行ったんですよね」
「今は部屋で友達と寝ているはずだよ」
友達?
ダリアのことか?
まさか付いてきたのか?
「そのすみません。ユーナの暴走を抑えられなくて」
「ははは、気にしなくていいよ。あの子は人の役に立つことに幸せを得られる子だからね。今回のことも歌で幸せと届けたいと言う思いだったんだろう」
おじさん、昨晩は叱ると言っていたが逆に丸め込まれたみたいだな。
なんだかんだ言っても、おじさんはユーナに甘いからなあ。
「しかし、この家も本当に賑やかになったよ。これもリュージくんのお陰だね」
「いえ、俺は何も……」
「今までユーナと二人だったのが、八人になったからね」
えっ、八人?
おじさんとユーナと俺と欽治、雪ちゃんの5人に昨晩付いてきたダリアで六人のはずだ。
あと二人って誰だ?
「私のユーナとダリアぁぁぁ! ヒャッフ――!」
……え?
いや、マジで勘弁してくれ。
「え!? きゃぁぁぁ! どこ触っているのよ!」
「良いではないか! 私のダリアは最高だ!」
早く纏まった金を手に入れて出て行こう。
これは地獄の生活になることは目に見えている。
杏樹で七人か。
あと一人って誰だ?
「ダリア嬢が目を覚まされたですと!」
……え?
あ、あの声は?
「さぁ、愛輝! 朝のお布施をしなさい」
「ダリア嬢に1万ゼニカとユーナ嬢に1万ゼニカでござるぅぅぅ」
朝のお布施って何だよ!
愛輝、完全にカモられているぞ。
しかも、一気に騒がしくなったし、農園から家を見るといつの間にか増築されている。
これもユーナの魔法か?
「ははは、みんな起きたようだね」
「ここまで声が聞こえてますよ。これは毎日騒がしそうですね」
欽治は良いとしてダリアはやめてくれ。
同じ屋根の下で生活するには誘惑が多すぎる。
杏樹?
変態に魅力など感じない。
胸だけは特盛りだが。
「さて、朝食の準備をしようか。リュージくん、先に戻って湯を沸かしておいてもらえるかな」
「いいですよ」
家に戻り、おじさんに言われたことを済ます。
「あっ、リュージぃぃぃ!」
ガバッ
ユーナがいきなり俺に抱きつく。
ちょっ、何だよ?
「久しぶりと言われても俺としては数時間の別れにしか思えなかったがな」
「あはは、そんなこと言っちゃって! 私はずっと会いたかったんだからね」
なんだ?
いつものユーナと微妙に違う。
俺にはその感覚は無いがこいつは別世界で1年を過ごしたんだよな。
少し、大人になったわけか。
「ちょっと、リュージくん。ユーナから話は聞いているわ。これからよろしくお願いするけどユーナに手は出さないでよ」
「は、はい」
ダリアもいつの間にか名前を覚えてくれている。
この人と仲良くなれば元の世界に戻ることができそうだから好都合だけど。
これはユーナにグッジョブと言うしかないだろう。
「リュージ殿、いつの間にダリア嬢と仲良くなったでござる! 吾輩たちの桃園の誓いはどうなったでござるか!?」
だから、そんな誓いしていないって。
あと顔が近い、ソーシャルディスタンスって知ってますか?
「ああああああ! 私の雪ちゃん、今日はどこに行きまちゅか?」
「あはは! デカメロンちゃん面白い――」
デカメロンって……ま、確かにそうなんだけどさ。
これだけの人数がいるとマジでうるさい。
俺のスローライフは必要最低数で良いのに。
「さて、朝食後にクラン結成のための話し合いをするわよ」
「私はユーナが望むことなら何でも大丈夫だ! 何でもだ! な、ん、で、もだ!」
何を期待しているんだよ、杏樹。
「吾輩はダリア嬢の行くところは黙ってついて行くでござる」
「あはは――。私のお供をするのに毎回、50万ゼニカね」
「了解でござる!」
愛輝、目を覚ませ。
どうやらダリアはお前を良い金づるとしか思っていないみたいだぞ。
それにしても、おじさんと欽治は遅いな。
こいつらは何か食わせて黙らせておこうか?
俺は静かな生活が好きなんだ。
ちょうど、小麦粉と卵と牛乳があるから簡単なパンケーキでも焼いてやろう。
こう見えて、俺は料理は得意なのだ。
なぜかというと静かな生活を望む俺として自炊は必須だからな。
「ほら、これでも食べて待っておけ」
「あら、美味しそう」
「ふふん、私のリュージよ! 当然じゃない!」
誰がお前のものになった?
杏樹みたいな言いかたをするな。
「リュージ殿、凄いでござるな。インスタ映えするでござる!」
「金づるちゃん、あたしも――!」
金づる?
愛輝……まさか、雪にまでお金を?
雪ちゃんのあだ名付けは欽治の技名と同様に芸が無いな。
「わ、私はユーナたち美少女の黄金水を!」
やめろ、気持ち悪い!
それともお前が便器になるか?
……女性限定でなりそうで怖いな、マジでやめてくれ。
「ただいま戻りました」
「おう、欽治。毎朝早いんだな」
「あれ、みなさん揃って何をしているんです?」
「お姉――ちゃん!」
「はわわわ! 私は欽ちゃんの汗を舐めるだけでもいいぞ!」
だから、やめろ!
このド変態だけどうにかしてくれ!
「おやおや、これはリュージくんが作ってくれたのかい?」
「あ、おじさん。すみません、勝手に食材を使ってしまって」
「あはは、気にしなくていいよ。それじゃ、朝食も手伝って貰おうかな」
「了解です」
これからこいつらの飯を作るのが俺とおじさんの日課になってくるのが目に見える。
でも、料理の腕がさらに磨かれるならいいかもしれないな。
あいつらの相手をしなくていいのも助かる。
うるさいのはどうにかしてほしいけど。
朝食後、おじさんは再び農作業に出ていった。
「さて、それじゃクラン結成に向けて会議するわよ!」
「女神様、ニーニャさんはどうするんですか?」
「あ、そうだったわね。すっかり忘れてたわ」
すっかり忘れるなよ!
俺にとってはそれこそが最も重要なことなんだよ。
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