21
「…ん…」
何だか体がだるい…
そう思いながら、私は重たい瞼をゆっくり上げる。
開いた
右手を誰かに握られている事に気がついて、顔だけで横を向けば、
私が寝ているベッドの横で、椅子に座って私の手を両手で包みこむように握りしめ、
そのまま顔を私のベッドの端に突っ伏して寝ているお兄様がいた。
そうだ、昨夜、私は…
と考えていると、お兄様が身動ぎをし、ゆるりと目を開いた。
「…ユリーナ…?」
私の手を握ったまま、
おはよう、と眠そうな声で言うお兄様に、私もおはようございます。と返す。
「あの、お兄様、もしかしてずっと…?」
「あぁ、そうだよ。ユリーナの寝室から嫌な気配を感じてね、様子を見に来たんだ」
「嫌な気配…?」
「うん、ユリーナ、君は昨夜魘されていたいただろう?
ユリーナの周りに、黒い
あれが殿下やアンカー嬢が言っていた呪いだろう?」
一応、私も抵抗魔法は使えるからね。というお兄様。
「そうだったのですか…すみません、ありがとうございました、お兄様。」
でも、宮廷魔術師の方に魔法を掛けてもらい、尚且つ魔道具まで着けているのに…と思いながら
首にぶら下がっている深碧色の石が付いたネックレスに視線を落とすと、
お兄様も私の疑問に気が付いたのか、あぁ、と言って頷いた。
「私も、何故魔道具も魔法も効かなかったのかはわからない。だから、とりあえずもう一度上掛けでお願いしてもらおう。」
「わかりました。」
ふと、お兄様の顔を見て昨夜の事を考える。
昨日、私は夢を見たのだ。あれはきっと今までで一番怖かったと思う。
お兄様に信じてもらえず、冷たい瞳で睨まれ、挙げ句の果てにはそのお兄様に殺される夢だなどと。
今思い出してもゾッとする。
と、そこまで考えて、あれ?と思う。現実のお兄様を見ても、全く恐怖感がない。寧ろ…
ん?ちょっと待って、あの夢の後、私、お兄様に…!?
え!え?!と内心慌てるが、
無理やり平静を装っているとお兄様がそういえばと話を続ける。
「ユリーナが魘されている時、ユリーナの魔力が引き抜かれる感覚がしたから、
私の魔法で何とか留めるようにはしたんだ。
でも少し間に合わなくて幾らか持ってかれたかもしれない。」
助けられなくてごめんね、ユリーナ。と私よりも辛そうに言うお兄様に、
責める事なんて出来るはずがない。
「お兄様が謝る事なんてありません。
それに、お兄様にはいつも助けていただいています。
それだけで充分です。
今も、こうしてずっと私の傍にいて下さっているのですから…」
「……わかったよ、ユリーナがそう言うのなら」
ありがとう、ユリーナ。愛しているよ。と、何だかくすぐったそうに微笑むお兄様に、
私も愛しています、お兄様。と
少し穏やかな時間が過ぎ、未だ自分の手がお兄様に握られたままなことに気付く。
と、同時に先程まで考えていた、お兄様に
「…あの、お兄様。昨夜、魘されていた時、私何かお兄様に粗相をしませんでしたか?」
遠回しにあのキスの事を聞いてみれば、お兄様はう~んと考える素振りを見せた後、そんな事はないよ。と言う。
「ユリーナがあまりにも辛そうだったから、何とかしてあげたくて、私はずっと
必死だったから、あまり覚えてないかな?
と苦笑いするお兄様に、あれ?と思う。
お兄様は、この状態でずっといてくれた…と言った。
そう、今椅子に座って私の手を握っている、
え?と、いうことは、あのお兄様にされたと思っていたキスは、夢…?
私は自分の勘違いに頭が沸騰するようだった。
まさか夢と現実がごっちゃになるとは。
確かにあの時は頭が朦朧としていたし、そうなってもおかしくはないが、
あんな…あまりにも濃密な….、夢を現実だと勘違いするなんて…
恥ずかしくて穴に入りたい。
夢は己の願望が現れる事があるという。
私は無意識にお兄様にそんな感情を抱いていたのだろうか…
そこまで考えて、ぶるぶると首を振る。
いきなりおかしな行動をする私にお兄様がどうしたの?と聞いてくる。
何でもありません。と笑い返して、
もう大丈夫ですので、支度をしますね。と言って
お兄様を部屋から送り出した。
少し怪訝な顔をしながらも、無理はしなくていいからね、と言うお兄様の声を扉越しで聞きながら、
私は新たな決意をした。
お兄様とはもっときちんと兄妹としての距離を置こうと。
以前に言っていたではないか、お兄様には心に決めた方がいるのだと。
お兄様だけではなく、殿下も婚約者はいなくとも他に好いた方がいるかもしれないのだ。
最近私の行動が、心が最初の頃と変わって来ているのは
自分でも気がついている。
呪いで情緒不安定になってしまったのか…
いや、そう考えるのは只の逃げだろう。
ウェルミナとは良い友人関係になれたのは喜ぶべきだ。
でも、異性関係はもっとしっかりしなければ。
呪いに掛かったのだって、私の心が弱かったせいもあるかもしれないのだから。
お兄様や、殿下に沢山助けて頂いた恩は勿論忘れない。それは違う形でお返ししよう。
お兄様にはお兄様に。
殿下には殿下に。
そう心に決めた私の表情は、久々にすっきりしていたように思う。
何時ものようにお兄様に行ってきます、と言い、馬車に乗り込む。
この時私は、殿下やお兄様に向きかけていたであろう心の箱に、自然に鍵を掛けていた。
前世から自分の得意な事、他に相手がいる異性からは一線を引くということ_______。
そんな、私の変化に気が付いたのかもしれない、
馬車を見送るお兄様の悲しそうな表情に誰も気付く者はいなかった……………。
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