訓練その1


 「という訳で学。ボクは魔族で吸血鬼と夢魔のハーフなのさ」


 「えっ? なに、急にどうしたの?」

 

 残念な胸を張り笑顔で言うアリシア。

それは朝起きて、アリシアと朝食を食べている時だった。ここのご飯は、料理上手の使用人がいるらしくめちゃくちゃ美味い料理が出てくるのである。

 昨晩も美味い料理が出て来たことから、学は、この時を楽しみにしており、それを食べている時の急なアリシアの発言である。


 「いや、自己紹介の時に言ってなかったからね。とりあえず、伝えとこうと思って」


 伝えるのはいいが、このタイミングじゃなくても良い気がなんて考える学。全くもってその通りである。


 「それに学は異世界から来たんだよね」


 「えっ? 何でそれを」


 一瞬心臓が止まりかけ、冷や汗をかく。この事はアリシアに伝えていない筈だからである。


 「そりゃ、分かるよ。この世界にない服に黒髪だし、さらにはボクの家名にも反応しない。ボクの家はある意味有名なんだよ。それに反応しないならこの世界の人間じゃないってね」


 「そうか」


 〈 それならバレても仕方ないか。別にバレた所でって話だけど 〉


 困る事がないなら別にいいと割り切る学。元々、適当な性格なのだろう。


 「要するに、学が隠してる事をわかっちゃったからボクの事も話しとこうかなってね」


 アリシアはアリシアで、家名に反応しない学ならと別に教える必要もない事を教えたのである。内心、家柄を見ない事にどれだけ喜んだことか。


 それからしばらく2人でたわいも無い話をしながら朝食を楽しみ、食べ終わった所でアリシアがこれからの事を話し始める。


 「学には、一年の間にある程度戦えるようになって貰います。今のままボクと旅に出ても足手まといでしかないからね」


 話すアリシアは、さっきと打って変わって真剣な表情をしている。

この事に関しては早急に解決しないといけないと分かっていた事だ。学は1度死にかけているのだから。


 「それにユニークスキル。学は、持ってるよね」


 アリシアは確信があるのかハッキリと言う。


 「......持ってる」


 一瞬言うことを躊躇ったがアリシアはここまで親切に世話を焼いてくれたのだ。信頼出来ると判断した学は正直に話した。

 ユニークスキルを持ってる事。それがどんな効果を持っているかを。


 「確かに凄い効果だね。でも注意しておく事があるね。あまり、ユニークスキルの理解を深めなくて良いってことを」


 これには学は頭を捻った。スキルを詳しく知っていた方が戦いを有利に進めることが出来ると思っているからだ。


 「それは何でだ? 詳しく知っていた方が良いんじゃないのか?」


 「ちょっと言い方が悪かったかな。ユニークスキルの権能がある物に関しては権能の事を除外して理解した方がいいんだよ。例えば、学の『ラーニング 』。権能の中に死闘を繰り広げるなんてあるよね。これなんて狙って起こせるもんじゃない。命がかかってるんだから」


 「確かに」


 言われて見れば危ない権能である。確かに強力だがその度に死ぬ可能性を高めていては話にならない。


 「それと他人のユニークスキルを見て覚える権能。覚えた所で使えるとも限らないし、覚えた所で使いこなせるの? ましては使えるスキルが増えていけばいくほど、戦闘時の無駄な選択肢を増やすばかりで危ないよ」


 これも一理ある。増やしても使えるかどうかは分からない。それに自分はそんな器用な人間じゃない気がするなと考える学。


 「確かに。ありがとう、参考になったよ」


 「どういたしまして。学には強くなって貰わないといけないからね。要は学の『 ラーニング』は学習能力をあげる力と思っていれば良いんだよ」


 「分かった」


 難しい事は考えない。出来る事からやっていこうと決意する学だった。


 〈 でも、学の『ラーニング 』。ボクの予想通りなら権能抜きでも凄い力だと思うけどな〉


 決意する学の向かい側でそんな事を考えるアリシア。『 ラーニング』の真価を見出していたのである。だけど、ただ教えるだけじゃ意味はないだろうと黙る事にした。出来る女なのである。


 「話がそれたけど、学には力を付けて貰う必要がある。ちょうど、ピッタリな人がこの屋敷にはいるからね」


 「ピッタリな人?」


 「ジョセフ、来て」


 「はい、お嬢様」


 先程まで学とアリシアしか居なかった部屋に初老の執事服をきた男性が現れる。突然の事に椅子から転がり落ちる学。それは驚くだろう。


 「びっくりした!」


 「はは、やっぱり学は反応が面白いね」


 転がる学を見てアリシアは笑っている。イタズラ好きな女でもあるのである。


 「彼に教えて貰うといいよ。そうすれば、めちゃくちゃ強くなれると思うから」


 「死ななければですが」


 「怖いよこの人」


 表情を変えず、真顔でサラッと言う初老の男、ジョセフ。彼との、いや、 かつて『影断』の二つ名を与えられた男との出会いにより学は、強者への道に足の小指程度突っ込む事になるとは、この時は知らなかった。

 

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