Ver.7.1/第17話
『あれえ? また撃退に失敗してる陣営がある』
何という事のない呟き。発言したプレイヤーも、注目してほしくて発したものではなく、ちょっと気になっただけの話であった。
『撃退に失敗? 防衛じゃなくて?』
大規模襲撃は時間帯を選択できるとはいっても、日に数回あるうちから1つ選べるというものなので、同じ時間帯にイベントが起こる陣営も多い。実際、今もグループチャットでやり取りがあったのは、同じ時間帯に襲撃を退けた者同士がほとんどだった。当然、多くのプレイヤーがそちらに気を取られている隙をついて本城に攻め込もうとする陣営も少なくないのだが、攻城も防衛も設定してあれば後はAI任せなので、あまり効果的とは言えない。
訊き返したプレイヤーも、大規模襲撃の撃退に失敗したのではなく、本城の防衛に失敗した陣営があったのだろうと考えての発言だ。
『いや。今回は、それはないですよ。だって、ランキング4位の総大将のエリアですよ? この順位の総大将が防衛戦に負けたら大事件ですよ』
ハルマなどにしてみると、そんなところよく見てるなと感心することしかできない。それほど魔界に散らばる陣営の数は多く、いちいち全てを把握していられないというのが本音だ。ただ、対象が総大将であれば、細かくチェックしていても不思議ではない。何しろ、総大将の負けは陣営全体の敗北を意味するからだ。
『なら、だいぶ攻め込まれたけど、防衛に成功したってことなんじゃ? 総大将の陣営だったら、無理してでも攻め落とそうってところもあるかもしれないから』
『その可能性もあるかもしれないですけど、それだと妙なんですよ』
『妙?』
『そういう所ばかりじゃないんですけど、今回は一番安全な隅に陣取ってる保守的な総大将ですからねえ。ハルマさん達と違ってちゃんと本城エリアの強化もランク2まで上げてますし。ってか、上げてないのハルマさん達の所だけですけど……。ランキング4位の陣営の奥まで数をそろえて〈遠征〉したところで、長距離の移動で士気下がってまともに戦えないんじゃないです?』
『ホントだな』
ランキング4位というわかりやすい情報のおかげで、それぞれ魔界のマップを開いて状況を確認する。
ハルマ達も同じように隅に隠れている陣営を調べてみると、確かに本城の耐久値がランク1の数値にまで下がっていることがわかった。これは、攻撃を受けて破壊されたことを意味する状態だ。
これを修復するには素材だけでなく、初回の20%に減額されるとはいえ再びゴールドの支払いが必要になるので、なかなかの痛手だ。
『変化があったのは、この方の所だけなんですか? 周辺に変化はないんです?』
ネマキも半信半疑といった表情で尋ねている。大規模な〈遠征〉であるなら、仕掛けた陣営の守りが手薄になるので、逆に攻め落とされている可能性は高い。もちろん、AI戦なので、そういう設定にしている必要はあるが、設定し忘れている可能性は低いだろう。
『あ、はい。見た感じ、この2時間くらいはどの陣営も数は変わってないですね。おれ達の所って領土争いに関係ないんで、時間がある時には全部チェックするようにしてるんですよ。それくらいしか、役に立てそうにないんで』
これが本当であるなら、奇妙な話である。
状況的に、確かに大規模襲撃の撃退に失敗したとしか思えないからだ。
しかし、大規模襲撃は確かに無数のモンスターを相手にしなければならないとはいえ、難易度は高くない。むしろ、ボーナスゲームみたいに簡単な部類だ。それを失敗するなど余程のルーキーでもない限り、そうそう起こるものではないはずだ。
だというのに、彼の話によると今回が初めてではなく、何度か発生しているらしい。俄かには信じられないというのも無理はない。
『まあ、新規プレイヤーでも魔界は遊びやすいコンテンツではあるからね』
『でも、ランキング4位の総大将ですよ? 残れますかね?』
『有名な配信者とか、芸能人とかだったらありえるんじゃね?』
『この人、有名なんですか? 僕は聞いたことないですけど』
『いや。オレも知らんけど』
『わたし、ちょっとだけ聞いたことありますけど、有名ってほどじゃないですよ? 配信もやってないはずですし。確か、三皇ほどじゃないけど、いかにも効率厨って感じの人だったと思います』
『人望で残ったわけじゃなさそうってことか。そうなると、益々わからんな。そんなやつが襲撃戦を失敗するとも思えないし』
『襲撃戦のタイミング間違えてログインし損ねた? あ、いや、インしてるな』
その後も様々な憶測が行き交ったが、どれもが決定打に欠けるものばかりであった。そもそも、確かな情報は耐久度が下がっているというものだけなのだ。答えが出るはずもなかった。
しかし、困惑したのは彼らだけではなかった。
むしろ、彼ら以上に困惑したのが当事者たちである。
故に、答えは自動的に広まっていく。
『NPCの反乱?』
情報が駆け巡り、いち早くキャッチした者が報告してきた内容に、多くが唖然とさせられ、同時にいつ自分達の身にも降りかかるかわからない事態に、戦々恐々となるのだった。
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