Ver.7.1/第6話

「ハル~。このレシピ、何?」

 クエストクリアの報酬が届き、ハルマが色々調べていると、近くにいたのかマカリナもやって来た。

「これ、みんなに共有されるのか。そりゃそうか」

 どうやらクエストの報酬はパーティを組んでいない状態であっても、同じ陣営内で共有される仕組みのようだ。

「さっき話してた家具職人のNPCと話してたらクエストになってさ……。それの報酬だよ」

「あー。そういうこと。ってか。魔界でもクエスト発生するのね」

「俺も驚いたよ。しかも、このレシピの感じだと、まだまだ隠し要素がありそうだからな」

 新たに追加された家具のレシピは〈亜人族の寝床〉と〈悪魔の燭台〉の2種類であった。

「ただのベッドと照明じゃないの?」

 マカリナも詳細は確認していなかったらしく、レシピをメニューで呼び出しながら尋ねてきた。

「レシピの必要素材を見てみなよ。燭台じゃなくて、ベッドの方」

 ハルマに促され、マカリナもレシピに目を通す。直後、ピンと跳ね上がった両方の眉が下がることなく、ハルマに視線を戻してきた。

「ちょっ。これって」

 レシピに記されていた素材は〈上質な羽毛〉〈良質な布地〉〈ふかふかな草〉〈魔力で満たされたしなやかな木材〉であった。それぞれいくつか候補があるが、魔界で採れるものとなると1種類か2種類しかない。中でも問題なのは〈魔力で満たされたしなやかな木材〉である。

「この木材って、どう考えても魔芯材だよな?」

「だよね?」


【魔芯材】

【魔界限定素材/取引不可】

【魔界の瘴気を帯びてしなやかなだけでなく丈夫になった木材。加工には熟練の技術が必要】


 果たしてふたりの予想は正解で、すぐに亜人族の寝床は完成した。

 デザインは無骨ながらも、亜人系のモンスターに合わせて3種類のサイズがあり、使い心地は良さそうだ。今まではプレイヤーに合わせたサイズのものしかなかったので、ゴブリンにとっては大きすぎ、オークやオーガにとっては小さすぎた。

 何より、レアな魔界限定素材を使っているからには、ゴーレムに起こったような変化が期待できる。

「これ、あたしらは〈木工〉のランクが熟練に上がってるからいいけど、職人やってない人だと作れないってこと?」

「いや、どうだろうな。たぶんだけど、クエスト依頼してきたNPCに材料渡せば作ってくれるんじゃないか? レシピ教えてくれた本人なんだし」

「あ! なるほどね」

「それに、この感じだと魔重石は国宝級のランクがないと加工できないってことだろ? 国宝級なんて聞いたことないけど、達人よりも上のランクだろうから、誰も加工できないってことになっちまう」

「確かに。ってことは、魔重石を加工できるNPCがどこかにいるってことか」

「かもな。いたとしても、ここの家具職人よりもレアなNPCだろうから、今回見つかるかどうかも怪しいけどな」

「そうだね。家具職人のNPCは何となく条件も見当がつくけど、石材系の素材を使う職人って、なんだろうね? 大工職人?」

「大工職人のNPCは城にいるからなあ。別にそれっぽいことも話してなかったし」

「……。訊いてみたことあるんだ」

 当たり前のように口にするハルマに、思わずジト目を向けてしまう。

「ま……まあ、それは置いといて、どんどん作っちゃおうぜ」

「はいはい。魔瘴銅も魔瘴鉄も使い切っちゃってるから、魔芯材も残しておいても意味ないもんね」

 魔芯材も本城エリアの強化に使う素材である。また、魔瘴銅と魔瘴鉄と違い、本城、城門、見張り台と複数の強化に必要なもので、そのぶん発見率は高い。とはいえ、森林エリア中心での採取を行わなければならないので、多くの陣営で採取ポイントを見つけるところから難儀しているようである。

 その点、ハルマにとっては慣れ親しんだエリアでの採取であるので、苦労していないのだが、先日ネマキによってかなりの範囲が伐採されてしまった影響で、少しばかりペースは落ちてしまっている。

 それでも、ハルマもマカリナも惜しみなくストックを消費して亜人系モンスター用のベッドを作り上げていく。


 それから2日と経たないうちに、変化は起こり始めた。

 魔界での攻防戦第1ラウンドも後半に入り、〈売り込み〉の申請はペースが落ちながらも途絶えることなく、ハルマ陣営の数も100を超えた頃、宿舎に新しく配置された〈亜人族の寝床〉を使ったのであろう亜人系モンスター、その中でもゴブリンに最初の変化が起こる。

「ホブゴブリンになったな」

「これ、オークとオーガも進化なり変化なりするのかしらね?」

「かも?」

 この時はまだ、4人とも微笑ましく変化を受け入れていた。

 何しろ、ゴブリンがホブゴブリンになったところで高が知れているからだ。ゴーレムがカッパーやアイアンゴーレムになったのに比べるとかわいいものだ、と考えていたのである。

 まさか、これが序章にすぎないとは、思ってもいなかったわけである。

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