Ver.7.1/第4話

 第1ラウンドの2日目も、初日と動きは大きく変化はなかった。

 この日も学校があったため、夕食を済ませてからのインとなり、玉座の間で一日の戦況を確認することから始まる。

「今日も全戦全勝。昨日よりだいぶ回数少なくなってるから、諦めてくれたのかな?」

 通知の戦歴一覧に目を通し、続いて外交通知の方に移る。

「うへ……。何で、こんなに?」

 通知には〈売り込み〉の申請がずらりと並んでいる。数で言えば、昨日よりはだいぶ少ないものの20を超える陣営からだ。

「昨日はオッケーで、今日はダメってわけにもいかないよな?」

 味方が増えるのは単純にありがたい。しかし、特別なことをやっているわけでもないのに、ごりごりと他の陣営との差を広げるのは如何なものかという気持ちも捨て切れない。

 とはいえ、やはり昨日は良くて今日はダメというのでは、道理が通らない気がするので、昨日の敵は今日の友の精神で全て受け入れることにする。

 味方が増える度にグループチャットには『よろしく』の言葉があふれる。しかし、それも3回目くらいからは鈍り始め、5回を超えるとピタリと止まる。


『お……終わりましたか?』

 数分かけて招き入れた新しい仲間の紹介アナウンスが止まったところで、恐る恐るという感じのチャットが届く。

『あ、はい。今届いてる分は、受け入れ完了です。皆さん、よろしくお願いします』

 それなりに責任を伴う作業のため、ハルマも一息ついていたため、ハッとしたみたいに通知する。

 それを待っていたように、再びグループチャット内は忙しく動き始める。

 今回集まったのは、前日に引き続き〈ドアーズ〉で直接間接問わず助けられたプレイヤーも多かったが、趨勢はすでに決したと勝ち馬に乗りに来た陣営、自分の拠点を落とされ、別のプレイヤーの配下に収まった陣営も多かった。

 特に、三皇の勢力に落とされたプレイヤーは、こぞって〈裏切り〉を選択したようである。

〈裏切り〉を選択するのは難しいことではない。特に、拠点だけでなく自治権まで奪われた場合は、ペナルティらしいペナルティも発生しない。唯一と言っていいのが、魔界にいる間、肩書に〈裏切者〉のレッテルが貼られたままになるという点くらいだ。

 つまりは、今後も〈裏切り〉を選択する可能性のあるプレイヤーだという目で見られてしまうことになる。

 ただ、このサーバーに限って言えば、ちょっと扱いも変わるだろう。

『三皇の阿呆どもにこき使われるくらいなら、〈裏切者〉のレッテルなんて軽いもんですよ』

 昨日に続き、三皇軍の動きは活発だった。

 1日で13まで陣営を増やした勢いのまま、この日も新たに4つの陣営を攻め落とし、他のサーバーであれば余裕でランキング1位の座をキープしていたことだろう。

 しかし、ハルマ陣営が新たに〈売り込み〉を受け入れた結果、差が縮まるどころか更に広がり、76陣営の圧倒的な勢力となっている。すでに魔界全土の15%近くを制圧する数だ。

 しかも、昨日のハルマ達のアドバイスのおかげもあり、味方陣営の防衛力は上がり、攻め落とされている陣営はほとんどない。また、これだけ数が増えると、近場で共闘できる陣営も増え、防衛に徹するどころか、攻めに転じる地域も出てきているほどである。

 自治権を奪われた〈裏切り〉の場合は、拠点エリアを失った状態での敗走に近い扱いとなるため居場所がなくなってしまうのだが、それも新たに攻め落とした魔物の軍勢のエリアを任せることで多少なりとも貢献できるようになる。

 また、このまま第1ラウンドを勝ち抜けば、第2ラウンドには拠点エリアも復活するので、それまでの辛抱である。特に、勝ち抜ける公算が大きい現状においては、ストレスも感じにくいだろう。

 当然、面白く感じていないのは、三皇をはじめとする他の勢力であるのだが、こればかりはハルマにどうこうできるものでもない。


 2日目にして大勢が決してしまったこともあり、同じ陣営の味方も守りを重視する方向に傾いているようである。最初こそハルマのために頑張ろうと息巻いていたのだが、ハルマ達に加勢するよりも、自分達の領土を守り抜くだけでじゅうぶん役に立っている状態であるため、すでに意識は第2ラウンドへと移っている様子だ。

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