Ver.6/第10話
モカの夏休みという短い期間だったが、余裕を持って〈ドアーズ〉を攻略することができた。運営の緩和策に助けられた面もあるが、ひと月以上も続いているイベントであるため、様々な攻略情報が行き交うようになったことも大きい。
とはいえ、その攻略情報の大部分は、元をたどればハルマに行きつくのだが、ハルマ達に直接の影響は少なくとも、最終的にはフルレイドの人数がそろわなければ戦えない仕様であるため、巡り巡って恩恵となっていた。
「ありがとねー。皆のおかげで、こんなに早くクリアできたよ。最初から最後まで、お世話になりました」
イベントエリアを後にして、スタンプの村に戻ったところで、モカは全員に感謝の言葉を伝え深々と頭を下げた。
「オレも、まさか3日とかからずにクリアできるとは思ってなかったです。完全に、ハルマ達職人組に助けられましたよ」
チップの言葉の通り、3日とかからずクリアできる内容ではない。緩和されたとはいえ、持込アイテムの制限は、今でも重い枷となってプレイヤーの行動を阻害しているはずなのだ。
食糧を確保するだけでも一苦労だというのに、不足する装備品と消費アイテムを難なく補充できたのは、チップの言葉の通り、生産職3人組の優秀な能力あってこそのスピードだった。
……のだが。
「いや。その認識はありがたいけど、1パーティに3人も生産職が混ざって、ノンストップで進めるのは、おかしいからね? 今回、パーティに入れてもらって実感したけど、みんな、だいぶ感覚がおかしくなってるからね? 俺が足手まといなのが、普通のことだからね?」
和気藹々と〈ドアーズ〉を振り返っている中、ソラマメだけが正論を口にした。
生産分野では一流の仕事を見せたソラマメも、戦闘になると守られるばかりであった。サポートできる程度の能力はあっても、戦力としては期待できないのが、普通の生産職であるので、むしろ、ソラマメは頑張った方だと評価できる。
だというのに、ハルマもマカリナも、通常のプレイヤーの数人分の活躍を見せるのだ。
マカリナは初動の鈍さが弱点ではあるものの、今回はマシン系ゴーレムである巨大テイムモンスターのマカロンを連れて行かなかっただけなので、普段はラキアに守られる回数はもっと少ない。
ハルマにいたっては、改めて大魔王としての存在感を示された思いだった。
「ははは……。確かに、ふたりに慣れ過ぎて、逆にソラマメさんが新鮮に感じられましたもんね」
シュンも、思わず本音を漏らす。
「わかる! ソラマメさんを守ってる時『ああ、これぞ本物の生産職』って、思ったもん」
「おい、アヤネ。俺も、れっきとした生産職なのだが?」
「いやあ、わかってるよ? ハル君の作ってくれるMPポーションだとか蘇生薬だとかには、いつも助けてもらってるし、装備品も融通してもらってるってことは。でもね。違うのよ」
「「「違う、違う」」」
アヤネの言葉にチップだけでなく、ラキアも頷いて同意してきた。
「リナもね、最初の頃はちゃんと守られる生産職だったんだよ? だから、あたしも盾職の勉強したし……。それが、今じゃ、これだもん」
「ちょっと、ラキ! 今でもちゃんと守ってもらってるじゃない。少なくとも、ハルと同列に扱うのだけは、違うってば」
「待った。忘れてるみたいだけど、さっきのスフィンクス戦、最終的に場を制圧したのは、リナのスキルだからね?」
「そ、それは……、そうだけど」
ちなみに、レイド戦の情報が出そろった後の戦いは、生産職が混ざっても、邪険に扱われることはなくなった。むしろ、途中からスフィンクスを撃ち落とすためのバリスタの作製と発射を担当するプレイヤーが必要になるため、重宝されるほどだ。
そのため、今回もハルマとマカリナは生産職枠としてバックアップメンバーに入るつもりだったのだが、他のパーティから待ったがかかったのである。
結果、ソラマメ以外は、生産職ではないプレイヤーがバリスタの担当になり、ハルマもマカリナも戦闘に集中することになったほどである。
この際、ハルマとマカリナが生産職だと打ち明けても、信じてもらえなかったのが原因だ。
「ホントにねー。ハルちゃんもリナちゃんも、これにクラス? だっけ? が、新しく追加されるんでしょ? 空恐ろしいわよねえ」
「ごめんなさい。その点に関してだけは、モカさんに言われたくないです」
しみじみと発せられたモカの発言にハルマが返すが、それに対してだけは、その場の意見が一致したのか、同時に大きく頷いていた。
その様子を目にし、モカも「あれっ?」っと、目を丸くして、驚いて見せたのだった。
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