Ver.5/第48話

「あれ? ハルマ、か?」

 陰ながらサポートすると言っても、すぐに何かができるわけではない。ハルマのインベントリには、それなりに消費アイテムや食糧のストックがあるが、不特定多数に配って回れるほど潤沢にあるわけではない。

 そのため、まずは第1エリアで、素材集めから始めていたのだが、そこで思わぬ顔見知りに遭遇した。

「テゲテゲさん。同じサーバーだったんですね」

「おー。やっぱりハルマだったんだな。おれが言うのも何だが、まだこんな所うろついてたのか? ずいぶん前に、ハルマの情報出回ってたのに」

 テゲテゲは仲間に視線を向けて、待ってもらうようにジャスチャーだけで伝えると、ハルマに向き直りながら尋ねてきた。

 全員テイムモンスターは連れていないようだが、8人組のフルパーティだ。

「俺の情報?」

「あー、いやいや。気にしないでくれ。それで? さすがのお前さんでも、このイベントは難儀してるのか?」

 テゲテゲは、SNSで拡散されている、ハルマがテントを使って寛いでいるスクショを思い出しながらも、誤魔化すことを選択した。何となく、知らない方が、ハルマに似合うと思ったからだ。

「いやー。テゲテゲさんなら、良いかな?」

 周囲を軽く観察し、カメラが近くに浮いていないことを確認すると、テゲテゲが配信中ではないと判断してから話し始める。

「実は、最終地点まで到達したっぽいんですけど、そこで足止め食らっちゃいまして。俺だけだとどうにもできないから、他のプレイヤーさんのサポートをしようと準備しているところなんですよ」

「はあ!? もう、最終地点まで行ったのかよ!? それで、何で足止めされてるんだ?」

 テゲテゲだけでなく、パーティメンバー全員が声を上げて驚いて見せる。まあ、無理もない。

「最終関門が、フルレイド戦なんですよ。たぶん、そいつが今回のラスボスだとは思うんですけど。40人そろうまでお預け状態なんです。ところで、テゲテゲさん達は、これからですか? それとも、戻ってきたところですか?」

 反応を見るまでもなく、最終地点まではたどり着いていないはずだが、途中で素材が足らなくなって戻ってきている可能性はじゅうぶんにある。

「ん? ああ、おれ達は、サーバーガチャをずっと続けてたから、本格的な攻略はこれからなんだよ」

「サーバーガチャ?」

 ハルマが首を傾げるのを眺め、テゲテゲはニカッと笑みを浮かべる。

「中に入ってからパーティ組むために、同じサーバーでそろうまで、何度もリスタートを繰り返してたんだよ」

「ふぁ!? そんな方法あるんですね!?」

「いや。こんな阿呆なことやってるの、おれらくらいじゃないか? まあ、その辺は、動画配信者としての、ネタ提供の一環だよ」

 実は、こういった方法は初期の頃から試されている。しかし、彼らのように、配信を通してマップを共有できないことには、合流もままならないため、多くのプレイヤーが断念している方法である。

「はあ……。大変ですねえ」

「でもな。これは、これで、結果として攻略しやすいメンバーがそろったから、ありだったのかもしれないな」

「確かに。持込制限を最大限に活かせる上に、今後の探索もやりやすいでしょうからね」

「今回は、この8人組だが、他にも何組かそろってるから、攻略の足並みをそろえれば、入れ替わりもけっこう簡単だからな。この先も、遅れて合流する連中もいるから、最終的には遅れた分は取り戻せるだろ」

 ふたりで話していると、不意に口を挟んでくる者がいた。

「でも、最後はフルレイド戦なんですよね? テゲテゲ、また戦力外になりそうじゃないか?」

「うっ!? やっぱ、ジャッドもそう思う?」

「素手での戦闘も板について来てるけど、所詮は素手。回避盾ができるならまだしも、ステータスも視聴者と一緒に悪ノリで決めてるからバランス悪いし、アタッカーとしちゃ役立たずだからな」

「くそ。相変わらずハッキリ言いやがって」

「まあ、見知らぬプレイヤーさんと混合パーティになる場合は、辞退するとして、おれ達だけで挑めるなら、問題ないかもしれないが……。ってなると、40人は身内で確保しないといけないけどな」

「40人か……。ギリギリいけそうじゃね?」

「今後の攻略次第になるけど……、微妙なところじゃないか?」

「マジ? ……おっと、すまないな。こいつは、おれのリアルフレンドのジャッドだ。配信にも昔から協力してもらってる、要は、おれのブレーンだ」

「どうも。三皇の連中と揉めた時には助かりました。なかなか会う機会がなくて、礼が遅れましたが、テゲテゲだけじゃなくて、みんな感謝してますよ。そうだ! テゲテゲ。ミッションクリアを目指すのも良いけど、あの時のお礼も兼ねて、ハルマ君を手伝うってのはどうだ? テゲテゲに限らず、戦力としては、中堅どころが多いから、ハルマ君に追いついて共闘するとなると心許ないし……」

 ジャッドの提案に、他のメンバーも「いいですね」と、声を上げる。

「なるほど……、そいつは面白そうだな」

 こうして、ハルマの企みに、テゲテゲ一行が加わることになったのだった。

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