Ver.5/第16話
「ねー。スズコさん。俺っちが参加するの、早すぎないっすか?」
スズコをリーダーにしてパーティを組み、〈不死者の砦〉専用サーバーに移動して、スタートを待っている状態であるにもかかわらず、ノジローは不安と不満が混ざった表情で尋ねる。
目的地である砦までは、最短で100メートルといった地点。スタートまでに残された時間は少ない。
「大丈夫よ。この2ヶ月みっちり鍛えたんだから、並の初期組と遜色ないわよ」
そうは言うが、正直もう少し時間が欲しかったのは否めない。運良くテイムモンスターの孵化が間に合い、実戦投入できるレベルにまで育てられただけで上出来である、というのが本音である。
「心配すんなって。スズコのことだから、今回でアンタが使い物にならないってわかったら、アンタを抜いて4人。アタシもダメそうなら3人でやり直すだけだって腹積もりに決まってるよ」
「さっすがナツキ、わかってるじゃん。でも、この5人で突破したいとは本気で思ってるから、手は抜かないでよ?」
ナツキの言葉に、ノジローも納得しながら何度も頷くも、スズコは付け加える。この言葉に嘘はないし、前回の反省も活かした上で、5人の方が可能性は高いと踏んでいるのだ。
「ちゃんと覚えてると思うけど、最初に向かうのは今見えてる門とは反対方向。通称B門だからね? AGIはノジローが一番高いから、ルート間違わないでよ?」
スズコは最終確認とばかりに、指さしながらノジローにレクチャーする。
前衛アタッカーのスズコ、壁職のゴリ、後衛魔法職のミコト。この3人に、ゴリを補佐しつつアタッカーも兼ねるナツキ、中衛アタッカー兼サポート職のノジローが加わった。
それぞれにテイムモンスター、スズコにはサメタイプの物理アタッカーであるファング、ゴリには完全盾役のガーディアンであるガッツン、ミコトには魔法特化のピグミーウィッチであるソアラがおり、順調に成長している。
ナツキのディーはゴーストタイプで補助がメインとなる。ゴースト系は少し特殊なテイムモンスターで、自身が戦闘に参加することもできるのだが、本領は憑依することで主を強化したりサポートしたりできる点にあるのだ。
ノジローのジャックは虫系のテイムモンスター。プチインセクトという芋虫のような毛虫のような幼体から進化して、カマキリタイプのアイアンマンティスになっている。ちなみに、騎乗もできるサイズがあり、将来的には空も飛べそうな雰囲気があった。
ただし、今回は騎乗して移動すると、完全に他のメンバーを置いて行ってしまうので、却下となっている。
「ルートは完璧っす」
間違えたら、リアルで殺されると、半分以上本気で思っているので、ノジローも必死だ。
こうやってスタートまでの時間を過ごしたところで、始まりのSEが鳴り響いた。
同時に、境界線を作っていた透明な結界も消え、視界の端に表示されていた時計も動き出した。
「さあ、今回こそ魔王になるぞお!!」
スズコの号令と共に、そろって走り出した。
スタートから見えていた通称A門は、向かってやや右側に位置する。
今回もスズコが選択したのは左側に位置するB門の方である。〈魔王イベント〉の予選が始まって、まだ日が浅いこともあり、タイムアタックの成績は伸びていない。様子見や情報収集を優先しているパーティが多いのだろう。
スズコ達も、力試しという意味合いが強いが、最初から全力で上位を狙いにいくつもりである。
今回も多くの挑戦者がC門を選択しているようであるが、〈魔王イベント〉に魔王として参加するためには、最初の感覚に従って、B門から攻略しなければならないと感じていたのだ。
幸い、スタンプの村に住んでいるおかげで、有名プレイヤーの方からやって来てくれる。前回のタイムアタック上位3組も滞在しているし、他にもかなりの実力者がそろっているのだ。
前回のタイムアタック上位3組の攻略方法を聞いた上で、スズコの判断は固まった。「参考にならん!」と。
ハルマとモカの真似は、まず不可能だ。だいたい、ソロなのにA門の大群を抜けられることがおかしい。厳密には、モカが突破したのはC門なのだが、そこにたどり着くまでにA門の前を通過してショートカットしたというのだ。
正直「阿呆か!?」と、叫びたい気分だった。いや、実際、叫んだのだが……。
テスタプラス達も、最終的に最速タイムを記録した時は、A門から攻略したという。しかし、話を聞くほどに、自分達のパーティではピースが足らないと断念せざるを得なかった。
そこは、5人パーティと8人パーティの越えられない壁に思えたのだ。
最終的に参考になったのは、チョコットやナイショといった動画配信者のトッププレイヤー達だった。
「悔しいけれど、本当のトッププレイヤー達とは、住んでる世界が違うわね」
チョコット達には悪いと思うが、前回の〈魔王イベント〉で全勝した5組とは、圧倒的な差を感じてしまっていた。それが悔しいとは思うのだが、なまじ良く知っているために、妬ましいとは思えなかった。
知れば知るほど、彼らの真似はできないと感じるからでもある。
ハルマやモカのプレースタイルをぼんやり思い浮かべている間に、先頭を走るノジローは教えた通りのルートを駆け抜け、B門に到達してくれた。
ここまで約5分。前回のタイムよりわずかに早くなっているが、大きな変化とまでは言えない。
戦闘は回避したのだから、当然である。タイムに変化が出てくるのは、これからなのだ。
前回も、ここからの攻城は順調だった。それでも、弟達同様、ボーダーラインを突破することはできなかった。それは、ほんの少しずつ各地でモタついたことが積み重なった結果である。
パーティ人数が増えたことで、ヴァンパイアを出現させるモンスターの討伐数は増加する。それでも、ヴァンパイアの討伐タイムは短くできるはずだ。つまりは、この門を如何に早く突破するか、侵入してから、如何に手際よく内部のモンスターを討伐していくかにかかっているというわけだ。
「さあ! こっからが本番だよ!」
スズコは気持ちを切り替え、最初の難関に向かっていくのだった。
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