閑話 Greenhorn-onlineチャンネル
Ver.5/第8話
6月に入って最初の週末21時。
Greenhorn-onlineのプロモーションビデオが流された後、画面はスタジオに切り替わる。
映っているのは、見慣れたMCのクラッチだ。
「始まりました。およそ1か月ぶりのGreenhorn-onlineチャンネル公式生放送! お久しぶりです。MCを務めさせていただきます、声優のクラッチです。本日も、よろしくお願いします!」
番組には、いつもと同じく、プロデューサーの吉多公介と、ディレクターである安藤雄仁も同席している。そして、今回はこの3人に加えて、見慣れない女性も参加していた。
いつも通りに安藤と吉多の紹介が終わり、最後の人物の紹介に移る。
「そして、今回はもう御一方お越しいただいています。〈大魔王決定戦〉では、解説も務めていただいた、チーフプランナーの白石さんです」
視聴者の中ではすでに予想されていた人物の名前だったが、この規模のMMORPGのチーフプランナーを任されているにしてはずいぶん若い女性であることに、驚きのコメントが多く流れる。
「皆様、はじめまして。チーフプランナーの白石です。こうして、生放送にお邪魔するのは、あんまり経験がないので、かなり緊張しています。本日は、よろしくお願いします」
言葉の通り、白石の表情はかなり硬い。
白石の緊張をほぐすのも目的に、そのままフリートークに移り、放送がなかった期間の話題が続き、本題へと流れていく。
「それにしても、最初に1か月ぶりとお伝えしましたが、前回は〈大魔王決定戦〉の様子をお届けした特別版でしたので、このスタジオでは久しぶりですね」
「そうですね。春休み前でしたかね?〈大魔王決定戦〉の正式な告知を出した回なので……。それでも、まだ2ヶ月くらいしか経ってないはずなんですけど、ずいぶん昔の感じがしちゃいますねえ」
クラッチの問いかけに、吉多が前回の放送を思い出しながら告げる。
「その2ヶ月で、Greenhorn-onlineの一大イベント、先ほどからちょくちょく話題に出ていますが〈大魔王決定戦〉が行われ、初代大魔王が誕生しましたからね。というわけで、今回は白石さんもお招きしたことですので、やっぱり〈大魔王決定戦〉の振り返りから、ですかね。もう、皆さん、結果はご存知だと思いますが、まずはダイジェストで、当日の様子をご覧ください」
………………。
…………。
……。
映像は〈大魔王決定戦〉の全試合の見せ場だけでなく、最後のハルマの表彰式までを見せて終了となった。
途中、スタジオの声もところどころ入り、思わぬ裏話もこぼれていた。
「ご覧の通り、初代大魔王は、不落魔王と称され続けてきたハルマさんが君臨することになりました! ハルマさん。おめでとうございます!」
クラッチの言葉に続き、スタジオ全体から祝福の声が上がり、画面内でもハルマを祝うエフェクトやSEが賑わっている。視聴者からのお祝いコメントが流れる速度も目で追えないほどの量である。
「いやー。ハルマさん。やっぱり強かったですね」
「強かったねえ」
「強かったですねえ」
「決勝戦にいたっては、私が解説する間もなく終わってしまいましたからね」
それぞれが感慨深くつぶやく中、白石だけは、どことなく不完全燃焼な雰囲気だ。加えて、解説として、全てを伝えられないもどかしさも感じられる。
そういったことも踏まえて、この日は白石も参加することになったのだ。
この後は、ダイジェストでは伝え切れなかったデータや解説を、白石を中心に進めていくことになった。
モカVSテスタプラスの準々決勝第1試合から始まり、決勝までの全7試合を、簡単にではあるが、見ただけでは伝わり難いポイントを中心に話していく。
「最後のハルマさんが使った〈ダブルカッター〉ですが、これを使うまでの時間はだいたい1分くらいしかないんです。それでも、この間にハルマさんが駆使したスキルは、最初に出したカーテンも含めて、大きく7種類もあるんですよ。それをひとつひとつ解説できないところが、またもどかしいんですが……」
「あの煙幕で隠れていたわずかな時間で、そんなにですか!?」
「細かい話をすると、もっと複雑なことをされてるんですが、そうですね。だいたい、どれもハルマさんしか使えないような、使っていないようなものばかりなので、なかなかお話しできないのが心苦しいです」
「今回、〈大魔王決定戦〉に参加していただいた方は、そういう唯一無二のスキルや装備を駆使して戦われる方が多かったので、解説も難しかったんじゃないですか?」
「本当に、そうですね。特に、大魔王になられたハルマさんは、秘密情報の塊みたいな方なので、大変でした。でも、その分、見所の多い大会になったと思います」
「どの試合も見応えがありましたものねえ。そして、吉多さん。この〈大魔王決定戦〉で優勝して、大魔王になったハルマさんをメインキャラクターにして作られるオープニングムービーも気になるところですが」
「はい。そちらも鋭意製作中です。ちょっと色々ありまして、一度出来上がったものをゼロから作り直す勢いで奮闘中です」
「おー。それは、期待が持てますね」
「何しろ、これを目標に、皆さんには今後〈魔王イベント〉を目指してもらいたいですからね。……と、は、言え。発表は、次の〈魔王イベント〉が終わってからになってしまいますが」
「お? ということは、次の〈魔王イベント〉のお話に移りますか?」
「そうしましょう!」
こうして、〈大魔王決定戦〉の話題は終了となり、新たな魔王誕生のために画面はも気持ちも切り替えられたのだった。
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