Ver.4/第16話

「今回は、ハルマ君みたいに完全有利な相手なのか、やってみないとわからないから、皆さんには拠点の移動をお願いします」

 テスタプラスも、ハルマが取り戻した砦に、本格的に拠点を構えるつもりがないことはわかっている。

 しかし、ある程度拠点化させなければ、襲撃に耐えられないし、物資の移動もスムーズに進まなくなってしまう。

 指揮官NPCを配置できるところまでの、最低限の作業はやっておかなければならないのだ。

 そのため、ボス戦の応援に時間を費やすよりは、今後のためにも、拠点を移動させるのにどのくらいの時間と労力が必要なのかを把握することに人員を割くことにしたのだ。

 戦闘に参加しない面々は、それぞれどのような戦いが繰り広げられるのか楽しみにしていただけに、不満を口にする者も少なからずいた。

 ハルマも、そのひとりである。

 特に、ネマキとマカリナの連合パーティの戦いは、興味があったのだが、この2組は初めて組むので、どこまで噛み合うのか未知数ということもあり、テスタプラスの意見を支持していた。


 最終的には、全員がテスタプラスの意見に従うことになり、別々の方角に向かう2組を見送ると、作業に移ることになった。

 モカは不測の事態に備えて最初の拠点に戻り、襲撃に備える係。そのついでに、採取やモンスタードロップによって素材の収集もやってもらうことになった。

 動画配信者の3組は、当初の予定通り、物資運搬の担当である。すでに、NPCに任せて移動は始まっているが、大規模な移動となると、NPCに全部任せるのは少々心許ないため、護衛が必要だろうということになったからだ。

 ハルマは、当然、マカリナの分も生産職の活動である。

「兵士の装備品のランクアップは、拠点ごとにやらないとダメなのか。しかも、拠点の発展具合によって人口を増やせて、兵士も増員できるようになる、と……。そうなると、使わない拠点でも、それなりに強化していかないと先々苦労しそうだな」

 職人作業を行うための素材は、ここに来る前の大規模防衛戦で大量に押し寄せたモンスターのドロップで数はそろっている。当然、ランクの高い物は作れないが、現状としては、質よりも量を優先する時期なので問題はない。

「……にしても、ただの砦だけあって、広さはあるけど、使い勝手は悪そうだなあ。少し整理しておくか?」

 モカ達が最初の拠点に転移していったのも見送った後、ひとり残ることになったところで思案に耽っていると、最初に浮かんだのは一番大きな部分だった。

 村を作った時もそうだったが、どうにも大きな枠組みを先に決めてから、それに合わせて整備していく癖がある。

「お? なんだ、じょうぶな木づち使えるじゃん」

 砦の中はモンスターに荒らされており、あちこち崩壊してしまっている。この辺の修繕もNPCに任せられるはずだが、自分でできないか試してみると、あっさり撤去することに成功していた。

「建材も回収できるし、素材への変換率も悪くない。皆が戻ってくるまでに、作り直した方が手っ取り早そうだな」


 ちょうど転移場所の周辺を整理している時だった。

「か……勝ったわよ……」

 3時間ほどで帰ってきたマカリナ達は、足取り重く疲弊し切っているように見えた。その様子は、ネマキも同様であった。

「あんなに次から次に、ポンポンポンポンポンポンポンポンッ! 魔物の卵を召喚するとは思わなかったわよ」

 ナイショが懸念していたギミックとは、時間経過によって蜘蛛の巣から落ちてくる魔物の卵であったようだ。

 少しでも放置しようものなら、あっという間に孵化して襲い掛かってくる。そして、この生まれたてのモンスターにばかり気を取られていると、メインのイベントボス、アムドアラクネによる強烈な攻撃に吹き飛ばされてしまう。

 それでも、最初のうちは連携が上手く取れなかったせいで敗戦が続いたが、互いの息が合い始めると、予想通り噛み合わせは良く、普段以上の戦いで勝利することができたらしい。

 そうやって、2組の話を聞いている途中、もう一方の砦に向かっていたテスタプラス達も帰ってきた。

「その様子だと、そちらも勝てたみたいですね」

 テスタプラス達も、疲労困憊といった雰囲気だ。

 彼らが戦ったのは、彼ら自身のパーティであったらしい。しかも、ステータスだけなら、完全に上位互換のキャラばかり。

「過去一やりにくい相手だったね」

 全員の共通意見のようである。

 ただ、相手はAIキャラ。テスタプラス達が培ってきた連携が上回るのに、時間はかからなかったようだ。

「皆さん、ご苦労様です。たぶん、そろそろ護衛班も戻ってくると思いますから、休息所作っておいたので、ゆっくりしてください。まあ、食事ができるわけでもないんですけど」

 凱旋してきた面々を労うと、ハルマは転移場所の建物の扉を開ける。

 直後、疲れが一瞬で吹き飛び、唖然とした顔が並ぶことになるのだった。

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