Ver.4/第8話
クセの強い集団を統率するのは難しい。
しかし、その問題を解決することは、難しいことではなかった。
「よし! 何すればいいのか、あんまりわかってないから、テスピー、リーダーやって! うちは、テスピーの指示に従う!」
モカの一声に、他のグループも賛同したからだ。
「え? 僕がリーダーですか? ハルマ君じゃ――「お願いします!」――なくて?」
言い終わらぬうちに頭を下げてきたハルマに視線を下ろし、苦笑いのテスタプラスである。
「ハルちゃんも、もう少し大魔王としての意地を見せたら?」
モカも呆れてみせるが、その表情はニヤニヤとしたものだった。
「モカさんも、俺と同じソロプレイヤーだからテスタプラスさんを指名したんでしょ? いつも好き勝手プレーしてるんだから、みんなをまとめるなんて、向いてないことくらい、自覚していますよ」
「ま、その通りなんだよね。餅は餅屋って言うから、頼むよ青年!」
テスタプラスも、モカのニカッとした笑みを向けられると、抵抗できないことを悟る。
そうして、テスタプラスの振り分けによって、一先ずの方針が決められた。
まだ不明な点も多いことから、最初は手広く活動していき、流れを把握することになった。
そのため、3つのグループにわけて作業に当たり、クエストを進めていくことになった。
1つ目のグループは、テスタプラスのパーティとネマキのパーティ、それにモカも加わった拠点防衛班。これは、火力重視のふたりが、防衛戦でどの程度能力を発揮できるのかを把握するためである。
2つ目のグループは、動画配信者の3パーティで、運搬と護衛を担当する班。3つのパーティがそれぞれ、対応力が高いこと、更に、ニコランダが護衛向きのプレイヤーである点で編成が決められた。
3つ目のグループは、ハルマとマカリナの生産職ふたりによる物資支援班。正直、このグループは替えがいないため、最初に決められた。
「この拠点を大きくするよりは、次の拠点に移ってから大きくしていった方がいいかもしれないから、まずは、兵士の装備品や、消耗品の方を重点的にお願いできるかな?」
テスタプラスの依頼に、ハルマもマカリナも素直に従うことにする。
「リナは〈錬金〉〈鍛冶〉〈裁縫〉だったっけ?」
「そうね。防具系を作るのが好きだから、〈鍛冶〉と〈裁縫〉やることが多い感じ。武器の方もある程度は作れるから、〈木工〉も一人前にはなってるわよ。他の職人も、クエストはやってるから一応できるけど、ほとんど育ってないわね」
職人のランクは、見習いに始まり、駆け出し、半人前、一人前、熟練、達人と成長していくことが今のところ判明している。
「と、なると、〈調合〉と〈木工〉は俺の担当かな。ふたりとも〈錬金〉はできるから、素材さえあれば、材料は問題ないな」
「問題は、作った装備に〈魔加術〉を施す必要があるのか? かな? どう思う? あたし的には、そこまでこだわる必要はないと思うんだけど」
「俺も同感かな? 先に進んで、これ以上強化しようがない、って状況になってからでいいんじゃないかな? 指揮官NPC用のだけは、使った方がいいかもだけど」
生産職の行う〈魔加術〉は、消費アイテムを装備品に組み込むことで追加効果を付与するものだ。
装備品の性能の底上げであったり、状態異常などの追加効果を与えることを目的とするため、プレイヤーが使う場合は必須とも言えるものだが、NPCが使うことを想定して作るとなると、過剰な気がした。
何より、効果の低い〈魔加術〉を施そうと思っても、けっこうな量の消費アイテムを使うため、もったいないという感覚が強い。
方針が固まったところで、早速手分けして作業を行おうと思ったのだが、作業場に着いてから手が止まってしまう。
「素材、持ち込めないのか……」
「みたいね……。材料のストックも使用不可になってるわ」
まずは、素材から材料に〈錬金〉をしようとしたのだが、インベントリにあるはずの素材も材料も、アイテム名がグレー表示となり、選択できなくなっていた。
「仕方ない。まずは、採取からだね」
実のところ、これでフィールドを散策できる口実ができたと思っていたハルマなのだった。
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