Ver.3/第79話

 ――再び、テスタプラスに話は移る。


 ゲームの中なので、手応えを感じることはないのだが、テスタプラスの感覚として、一番しっくりくる表現が、それだった。

 手応えがない。

 視界を邪魔する煙の中、いるはずのハルマに攻撃を仕掛けたというのに、何の反応もなかったのである。

「どういうことだ?」

 怪訝に感じていると、煙の中から無傷のドラゴンと羽根を生やした女性のNPCが飛び出してきた。

「マズイ! 挟まれるぞ! モッチッチ、リュウタロー、盾!」

 壁役が本職のキナコとレッドスタは正面に配置しているため、両サイドの守りは手薄になってしまっている。

 テスタプラス達は、前衛攻撃職を3人横に並べている。

 それは、両サイドの2人が盾職に切り替わることでサポートに回れるようにするためである。

 中央のテスタプラスは、指揮官として瞬時に判断を下す。

「キナコとレッドさんは、そのまま正面の警戒! 何か来るぞ!」

 未だ煙に視界を奪われている中から気配を感じ取る。この辺の感覚は、テスタプラス以上のプレイヤーは、そうそういないだろう。

 3方向からの攻撃を的確に対処していくテスタプラス達だったが、ハルマの姿を隠していた煙が消えた時、思考は停止してしまう。

「なん……だ、ありゃ?」

 誰が口にしたのかもわからなかった。

 それほど、目に入ってきた光景が、意味不明だった。

 宙に浮かぶ人狼2体。人狼のような6本腕の謎の生き物2体。それら全員が、総数16本の円月輪を装備している。

 ハルマも、この作戦を思いつくまで、ピインのスキルを勘違いしていた。

 ピインの〈現影〉は、その名の通り、影と同化するスキルである。つまり、ハルマにしがみついているトワネの影も対象に含まれるのだ。

 もちろん、テスタプラス達が、そんなことを知るはずもない。

「「「「〈ダブルカッター〉」」」」

 ブーメランスキルの初歩的な技であった。

 装備しているブーメランが2つに分裂し、1撃のダメージは減るものの、2回ずつヒットすることで、通常よりは高いダメージを出せるものだ。

 もともと、ブーメランによるダメージは大きくは設定されていない。ブーメランという武器の特質は、攻撃範囲の広さにあるからである。

 しかし、弓と違うのが、威力は使用者のSTRに依存する点にあった。

 さて。それでは、〈覆面〉によってワーウルフになり、STRが1000を超えるハルマによって使われた場合、どうなるだろうか?

「「〈聖陣の盾〉!」」

 咄嗟にキナコとレッドスタの大楯使いが、モカの攻撃を防いだスキルを発動させたが、このスキル、ダメージを60%カットできるのは、どんな攻撃でも1回に限られる。つまり、ダメージ1の攻撃も、ダメージ1000の攻撃も、等しく扱ってしまうという、強力であるが故の欠点もあるのだ。よって、モカのように一撃で大ダメージを出せる相手には強いが、多段攻撃を仕掛けてくる相手には不向きなのである。

 結果、総数16本の円月輪が、2倍になって襲い掛かってくるこの状況では、焼け石に水なのだ。

 襲い掛かる円月輪から身を守ろうと防御の姿勢を取ったり、武器や盾でガードしようとするが、ハルマのようにガード率100%でもなければ、プレイヤースキルでどうにかできるものではない。

 更に、これを困難にするのが、ブーメランという武器の仕様にあった。

 範囲攻撃を得意とする武器のため、当たり判定がとてつもなく広いのだ。見た目上、数メートル離れていたとしても、ダメージを受けてしまうのである。

「回復しなきゃ……え!」

 テスタプラスの指示によって、後方に控えていたコヤ達魔法職のふたりだったがしかし、ハルマのことを知らな過ぎた。

 ブーメランは遠距離物理攻撃の武器である。それは、つまり、弓同様〈離れ技〉によって射程距離が延長されるということだ。コヤ達のところまで届くのは数が限られているが、魔法職の防御力とHPが高いはずもない。

「何で、ここまで届くのよー!!」

 コヤの罵倒にも近い叫びが上がる頃、〈聖陣の盾〉によって防がれた1本を除く、31本の攻撃によって、テスタプラス軍は壊滅してしまったのだった。

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