第5章 光の導き

Ver.3/第51話

「はぁ……、どーなんだ? これ」

 4月に入り、2週間が経過した。

 この間、Greenhorn-onlineの世界ではイースターイベントの追い込みで大変な賑わいだった。

 特に、ハルマ達がたまたま見つけたフルレイド戦後の、EXクエストの情報が拡散されるにつれて、それは顕著になっていた。

 ただ、あのEXクエスト自体はフルレイドに勝利することが条件ではなかったらしく、続々とクリア報告がアップされていた。

 肝心の肥料のレシピも、ある程度成長した錬金職人が尋ねれば、イースター・バニーが教えてくれることも判明しており、大した問題にもならなかったようである。

 とはいえ、特殊アイテムである〈蟻の糞〉を入手するためには、ジャイアントアントの巣を攻略しなければならず、別のクエストが発生するらしい。これはこれで、フルレイドとは違った大変さがあったようだ。

 ハルマ達の功績に感謝の言葉が続く中、キッカケとなった画像に写り込むハルマのことが騒がれることは一切なかった。

 これに関しては、サエラに感謝している。

 しかし、今現在、ハルマがタメ息を吐き出さなければならない理由は、別のところにあった。


「余計なことをしてくれたよなあ……」

 

〈大魔王決定戦 投票順位発表〉

 1位 ナイショ

 2位 チョコット

 3位 テゲテゲ

 4位 ニコランダ

 5位 モカ

 6位 トッシー

 7位 テスタプラス

 8位 ネマキ

 9位 カオスゼロ

 10位 ハルマ

 11位 マカリナ

 12位 アマイカライ

 ……。


 一見すると、ハルマは無事に落選したように見えるが、順位表の下に注意書きがある。

 イベント開催日は4月29日。13時から18時までを予定。

 同日、11時までにエントリーしたプレイヤーの中から、順位が上の方から8組が決定戦に参加が可能です。

 

 イベント当日に参加できるかどうかは、投票の段階では考慮されていないため、このような仕組みになっているのだ。8組によるトーナメント戦のため、1組でも欠場者が出てしまうと、盛り上がりに欠けてしまうからだ。

 つまり、上位陣のうち、ふたりが不参加となれば、ハルマも出場可能ということになる。

 ならば、ハルマもエントリーしなければいいだけの話なのだが、そこがタメ息の原因につながっていた。

 前回の中間発表まで1位だったテゲテゲが、3位にまで落ちていることも、その結果による。

 簡単に言えば、2回目の中間発表の直後、ハルマ達がフルレイドをやっている頃に、テゲテゲが自分の配信で視聴者を説得していたのだ。


「おれのリスナーさんなら、おれのことはわかってくれると信じてるから言うけど。ぶっちゃけ、おれを1位にするのは面白くないぞ? 前回の〈魔王イベント〉には実力不足で落選してるようなヤツが、最強決めようって大会に出ちゃダメだと思ってるんだわ。これまでも、おれに投票してほしいとは1度も口にしたことはない。最初の中間発表こそ、ネタだろうって受け入れたけど、今回もってなると、話しが変わってきちゃうんだわ。だから、おれが8人の中に入っても、棄権することを宣言しとく。みんなも、よーく考えて投票してくれ。どう考えても、前回全勝だった魔王がひとりもエントリーされないなんて、あっちゃダメっしょ?

 こっから後は、おれの個人的な要望だけど、ハルマだけは何がなんでも参加させたい! みんなも投票権が残ってるなら、ハルマに入れて欲しい! 不落魔王だぜ? 〈魔王イベント〉で、唯一負けなしのヤツだぜ? 観たいだろ!? おれが言いたいのは、こんなところだわ」


 この配信は、テゲテゲと親交のある動画配信者が他にも複数参加しての合同配信の形をとっており、同じような説得をそれぞれリスナーに向けて行ったのである。

 その配信者というのが、トッシー、カオスゼロ、アマイカライといった人物だった。つまり、ハルマより上の順位で、棄権を宣言しているプレイヤーが、すでに3人はいるということだ。

 そして、この流れを知ってしまったからには、迂闊に棄権も選択しにくい心情なのだ。


「いや、マジで棄権撤回してくれないかなあ……」

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