Ver.2/第47話

 長老樹に与える水は解決した。

 ダークエルフの里を出てすぐに、水神の眷属が棲むという湖に向かい、もらった水瓶を使ってみると、ファンタジーならではの質量保存の法則を無視した量が確保できていた。

 後は、肥料である。

「農耕民族っていったら人間か。そういえば、そうだな」

 森を切り開き、畑を作る行為は、森と共存するエルフ達とは確かに相反するように感じなくもない。

「農業……か。どこでやってるっけなあ?」

 パッと思いついたのは、土の大陸アースガンドであるが、町の中に畑が広がっていた光景を見た記憶はなかった。あちこちのフィールドで麦畑などを見かけることはあるのだが、そこで働く農夫を見たことはない。

 とりあえず、スタンプの村に戻るかと、転移オーブを使い、見慣れた我が家に到着すると、「あ」と、思わず声が出ていた。

「ここでやってるじゃん」


 スタンプの村は小さい。

 そこで暮らす住民の生活は自給自足のため、農業を営んでいる者がほとんどなのだ。

 馬小屋も、農業のために作ったことをすっかり忘れていた。

 最初の移住者であるカフェのマスターの両親、ベンジャミンとアンのところに向かい、肥料について尋ねる。

「肥料ですか? それなら、魚と動物の糞、魔物の骨で錬金できますよ。オーサイール地方で釣れるイウァーシだと効果も大きいです。馬の糞でよければ、馬小屋にありますので、ご自由にどうぞ」

 ベンジャミンの話を聞いた直後、肥料のレシピを覚えたことを報せるアナウンスが表示された。

「何だか、理にかなってるのか、かなってないのか、よくわからん組み合わせだな。しかし、〈釣り〉はここで役に立つのか」


〈釣り〉は、どこでも誰でもできる。釣り場となる川や池もいたるところで見ることができるのだが、手を出しているプレイヤーはとても少ない。

 ハルマは、マリーの服を作る際、必要になる素材を手に入れるためにスキルを取得していたが、それこそ例外中の例外な利用法である。

 問題は、釣れた魚をNPCに売る以外に使い道はなく、大した稼ぎにならないことだ。釣り具は装備品と違って、回数上限のついた消耗品扱いのため、自分で作れないプレイヤーにとっては赤字にすらなるのだ。

 プレイヤーバザーで売れるなら将来性もあるのかもしれないが、釣れた魚の使い道がまるでないため、出品しても誰も買わない。しかし、肥料という利用価値が見つかれば、少しは変わるかもしれない。

 ……の、だが。

「まあ、農業やれる土地持ってるプレイヤーなんて、たぶん俺くらいなんだけどね」

 未だハルマの他に開拓地を見つけたという情報を聞いたことがなかった。もちろん、ハルマのように隠しているプレイヤーがいるのかもしれないが、極少数だろう。

 ハルマとしては、ここ以外にもいくつか開拓できそうな場所に心当たりがあるだけに、どうして誰も手を出さないのか不思議なくらいである。

 何はともあれ、長老樹のために肥料を完成させなければならないので、自宅で釣り具を作ると、日が暮れるのを待ってベンジャミンに教わった通り、水の大陸オーサイール地方に向かうのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る