Ver.2/第36話

「いやー。今回はいつにも増して何もしてねえ」

 フォリートレントのように物理攻撃の連打があるわけでもなく、多段攻撃もなかったのでガード率100%によるダメージドレインが働かなかったのである。

 攻撃は主にズキンとヤタジャオースに向けられ、ハルマに届いたものは風属性の範囲攻撃だけだったのだ。

 それもズキンのスキルで守られたとはいえ、半減のはずが完全に無効化されてしまっていた。

 何が起こったのか理解できずにいたが、それどころではなかった。

「旦那様、やりました! ドラゴンの肉です!」

 ゲームの表現上、風喰いは消失してしまっているのだが、ズキンの手にはすでに切り分けられた肉の塊が握られている。

「お、おおう。良かったな」

 エヘエヘとだらしない笑みを浮かべるズキンに、どういう反応をしていいのか困っていると、どこからか悲鳴が聞こえてきた。

「そういえば、ここはダークエルフの集落だったな。まだ何かトラブルか?」

 悲鳴の聞こえてきた方に素直に向かう。


「父上! 父上えぇぇ! しっかりしてください!」

 ダークエルフ達が逃げ込んでいた、中央の集会所らしき質素な建物の中に恐る恐る入ってみると、小柄なエルフ族の中では立派な体型の男性に、必死に回復魔法をかけている少女がいた。

 しかし、効果があるようには見えない。

 見るからに手遅れという深手なのだ。

「どうしたんですか?」

 わかっていながらも、近くにいた男性に声をかけた。その男性も、体中に手傷を負っている。

「風喰いにやられたんだよ。ニノエがもう少し早く戻っていれば、回復も間に合ったんだろうが……。里であれば蘇生魔法を使える神官もいるのだが、ここにいるのは戦士ばかりでね」

 やり切れない表情の男性の言葉を聞いて「おや?」と、思う。

「ちょっと失礼しますよ」

 ニノエと呼ばれた少女の所まで進むと、蘇生薬を取り出していた。

「NPCにも使えるのか? これ」

 ズキン達であれば、NPCとはいえハルマのテイムモンスター扱いになっているので使えることは予想できる。しかし、普通のRPGの場合、ストーリー上の都合で死んでしまったNPCに対して、蘇生を試みることすらできないものである。

 ところが、蘇生魔法であれば蘇生できるかもしれないというではないか。

 無意味な行為に終わることは覚悟の上で、ハルマは天冥の霊水を使うことを選択する。


 ……と。


「お? 名も知らぬダークエルフ?」

 使用対象を選択する項目に、目の前のダークエルフと思われるものが表示されたのだ。躊躇することなく、使用するを選択した。

 天冥の霊水は宙に拡散し、男性を包み込むと仄かな光を発して蘇生を成功させたのだった。

「いけるのかあ」

 これには、ダークエルフ達だけでなく、ハルマも驚愕の表情を浮かべるばかりだった。

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