Ver.2/第30話
「ほわぁ……」
エリアボスの関所を通過し、しばらく続いた峡谷を抜けると、そこは小高い丘の上であり、フィールド全体を見下ろすことができた。
「ここは、エリア全体森林なのか?」
今までも森の中をメインに活動してきたが、ここの森に生える木々は、1本1本がかなり大きい。スタンプの村の切り株ほどの幹回りではないが、それでも大人が4~5人で手をつなげなければ届かないだろう。その分だけ間隔が広く、木々の隙間から徘徊するモンスターも覗き見ることができる。
「この辺にはエルフが住んでいるはずですよ」
肩に乗せていたトワネが教えてくれた。
だいたいいつも忘れているが、この蜘蛛のぬいぐるみは、この大陸の森の守り神なのだ。こういう知識は豊富なようである。
「エルフ! ついに定番異種族も登場かあ」
実は、始まりの町にもわずかだか存在している。消費アイテムを売っていたり、レシピを売っていたりするのが、だいたい異種族のNPCなのだ。ところが、彼らは一様にNPCらしいNPCのため、受け答えは画一的なのである。
「この辺りのエルフはダークエルフと呼ばれる種族で、あまり交流を持ちたがらないので、見かけることはあっても逃げられてしまうかもしれませんね。こちらではなく、ギャズエルを抜けた先にはエルフの国もあるので、そちらだと友好的な方も多いですよ」
「なるほどねー。大陸によって住んでる種族が違うのかな?」
「どの大陸にも、色々な種族の方が住んでいますが、国を作っているのは特定の種族ですかね」
「水の大陸だと人魚の国が有名ですよ」
「闇の大陸だと鬼人の国ですね。そこに、ダークエルフも都市を築いていたはずです」
ユララとズキンが教えてくれる。
「ダークエルフはここだけじゃないのか……。ってなると、土の大陸はドワーフとかかな? だいたい属性のイメージに合った種族がメインで住んでるんだろうな」
森の方から流れてくる風――とはいっても、肌で感じるわけではなく、身につけている衣服や髪が揺らめく様子――を感じながら進んでいく。
PVPの心配もあるため慎重に前進していくのだが、ふと奇妙な感覚になっていた。いくらエリアの入口に近い場所とはいえ、あまりに静かに思えたのである。
「皆、PVPは避けてるのかな? それとも、PVP用に隠れて行動してるのか?」
まさか自分しかいないとは思っていないので、当然の考察である。
PVPに対して多少の緊張感はあったが、〈魔王イベント〉での経験があったからか、出会った時は仕方ないとすでに諦めているからか、のんびり進んでいく。
何が起こるかわからない不安よりも、今までに見つけたことのない高ランクの採取ポイントが行く先々で見つかることで緊張感も吹き飛んでいたのだ。
「すごいなー。見たことない素材ばかりだ。使い道もわからないけど、集めておいて損はないよな? んー? でも、バザーでも見かけないのが多いけど、そんなに珍しいのか? まあ、いいか」
そうやって何事もなく転移オーブの登録場所へとたどり着いてしまったのだった。
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