Ver.2/第19話

「こんにちは!」

 森に入ってすぐ、見知らぬプレイヤーとすれ違い挨拶された。

 こんな所で珍しいとは思ったが、イベント期間中ということもあり、あちこち探索しているのだろうと挨拶を返す。

「あんな装備でソロ探索? か? 近くにパーティメンバーいるのかな?」

 チップが首を傾げるのも無理はなかった。

 相手は初期装備ばかり身につけていたからだ。

「そこはスイッチング機能使ってるんじゃない? さすがに初期装備で耐えられるレベルの人は、まだいないでしょ。ハル君みたいな規格外でもない限り」

 スイッチング機能とは、身につけている装備品と見た目の装備品を切り替える機能のことである。これを利用することで、無骨な装備の性能を残しつつ、お気に入りの恰好で過ごすことができるのだ。

 ハルマが〈魔王イベント〉で魔王のロールプレーをした時にも使っていたものである。

 切り替える見た目は複数登録しておけて、好きなタイミングでスイッチングが可能だ。ただ、身につけている装備品が切り替わるわけではないので、耐性だとかステータスを一瞬で切り替えるという使い方はできない。

 しかし、普通は見た目は不格好だが強力な装備品をフォローするために使われるため、もっとも味気のない初期装備にわざわざスイッチングするプレイヤーはいなかった。

「まあ、色んな人がいるよな」

「だなー」


 森に入ると、視界は当然悪くなる。しかし、8人+6NPCもいれば、危険な目に合う可能性はだいぶ低くなる。特に、索敵に関する能力はハルマ自身も〈発見〉のスキルを保有している上に、ズキンが飛び抜けて長けており、意外なことにマリーも優秀であった。

 ハルマの案内で採取ポイントを巡りながら、ジャック・オー・ランタンを探し、お菓子を集めていく。

 どうやら、ジャック・オー・ランタンは森の中の方が配置数が多いらしく、頻繁に見つけることができた。

「あ! またあった」

 採取ポイントを探すのはハルマに任せ、他の面々はランタンの明かりを探すという役割分担がいつの間にか出来上がっており、どんどん数が増えていく。

「けっこう集まったなー。でも、お菓子ばかりでコウモリの使い魔の手がかりはない感じか」

 チップは目新しいお菓子がないことに首を傾げる。何かしら、特殊なお菓子でも見つかってイベントが進行するのかとも思っているからだ。

「何かしらね?〈いたずらゴースト〉に渡したら、特別なフラグが立つのかしら? 〈いたずらゴースト〉からクエスト依頼されるとか」

 姉のスズコも弟の疑問に同調すると、ゲーム慣れした面々は納得の表情を浮かべていた。

「じゃあ。粗方、森の中の採取ポイント巡ったら、町に戻って〈いたずらゴースト〉探しましょうか」

 実は、ハルマも多くのプレイヤーがコウモリの使い魔を手に入れることを望んでいた。コウモリだけでなく、様々な種類の使い魔が増えることで、ズキンやユララ、ヤタジャオースの存在感が相対的に薄れてくれるのではなかろうかと密かに期待しているからだ。

 ハルマの提案に反対する者もおらず、森の中をぐるりと回ったところで、一行は町に戻ることにした。

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