第86話

「この後は、どうするの? 魔王城の改築?」

 チップが生産職プレイヤーを探しに行くため村を離れると、モカに尋ねられた。

「改築はまだできないですよ。でも、城のコンセプトはもう決まってるので、それに合わせたスキルをちょっと成長させたいなと思ってます。そうだ! モカさん、どっかにそんなにモンスターは強くないけど、次から次にポップする場所知りませんか? 〈ゴブリン軍の進撃〉で戦った感じの、もう少しユルイ場所があるといいんですけど」

 すでに現状の能力でも対応できそうな気はしていたが、念には念を入れたかったのである。

「そうだなー。あそこまでウジャウジャとは出てこなくて、わりと低ランクのモンスターばかり頻繁に出てくる、打ってつけのダンジョン知ってるよ?」

「どこですか? 俺でも行ける場所だといいんですけど」

「たぶん行けるんじゃないかな? 水の大陸のマァグラセ地方にある、なんだったかな? 知恵と力が封じられし遺跡? だっけ? なんか、そんな名前のダンジョン。ちょっと前までは狩場として有名だったみたいだけど、今はそんなに人いないんじゃないかな? 新しい狩場にみんな移ってるって聞いてるから」

「知恵と力が封じられし遺跡ですか……。名前からしてお宝が眠ってそうですけど、聞いたことないな」

「いや、それが、宝箱があるにはあるんだけど、なんだったかな? そんなに珍しいものじゃなかったと思うよ? 杖か本の装備品だった気がする。やけに入り組んだダンジョンだから、うちの性格に合わなくて、最初にちょっと観光しただけであんまり探索はしてないけど」

「あー。魔法職用のダンジョンなんですかね? わかりました。行ってみます」

「ほーい。うちは何だか一安心したらお腹空いてきたから、落ちるわ。魔王城が改築できるようになるのって、いつから?」

「確か、明日の昼からのはずです」

「おっけー。じゃあね」

 モカはそう告げると、この場でログアウトしていった。


 教えてもらったマァグラセ地方に飛ぶと、徒歩で目的地へと向かう。

 知恵と力が封じられし遺跡は、山の上にあるのだそうだ。

 素材を採取しながらふらふらと向かう道すがら、モンスターは極力回避する。戦闘に明け暮れることもないので、〈ゴブリン軍の進撃〉が終わってからはレベルも2つしか上がっていない。ただ、トッププレイヤー達もこのひと月ほどで、2つくらいしか上げられないほど、必要経験値は膨大になっているようである。

「ここか……。けっこう遠かったな」

 森を抜けなければならなかったが、森の中の方が安全に進めるという妙なプレースタイルもあり、ズキンやマリーも生き生きとしていた。

 森を抜け、山岳地帯に入ってからも人気はなく、レベリングに訪れる者もいなくなってしまったらしい。

「ハルマ! つらら!」

 マリーは山の中腹から積もり始めた雪に興奮し、ずっとはしゃいでいる。対して、ズキンとユララは寒さに身を震わせていた。

「マリーは寒さ、感じるのか?」

「ん? ぜんぜん」

「だろうね」

 ハルマも寒さは感じていなかった。どうやら、プレイヤーに暑さ寒さは関係ないらしく、一部のNPCだけが影響を受けるようだ。トワネもぬいぐるみのため、その辺の感覚はないようである。

「とりあえず入るか。ズキンとユララが凍えちゃう」

「はーい」

 奇妙な一行は、寒さから逃れるように遺跡の中へと入っていくのだった。

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