第78話
週末の21時。
Greenhorn-onlineのプロモーションビデオが流された後、画面はスタジオに切り替わる。
映っているのはきれいな顔立ちの女性だった。
「始まりました。Greenhorn-onlineチャンネル、記念すべき第1回の公式生放送! はじめまして、MCを務めさせていただきます声優のクラッチです。本日は、よろしくお願いします!」
番組には、MCの他にプロデューサーの吉多公介と、ディレクターである安藤も同席している。特に、安藤が紹介されると視聴者のざわめきも一気に大きくなる。
コメントの中には、並んで座る2人の年齢差が大きいため、祖父と孫のような雰囲気が醸し出されている、なんてものがあるほど、吉多は年若いプロデューサーだった。
その後、初めての生放送とは思えないスムーズな進行で番組は進んで行った。
Greenhorn-onlineのサービスが始まる前からの振り返り、プレイヤーの傾向と今後の予想。そういったものを吉多の解説を交えて紹介されていった。
そうして番組も中盤にさしかかった頃、話題は第1回イベント〈ゴブリン軍の進撃〉へと移っていった。
「ものすごく楽しかったです。楽しかったんですが……、言っていいですかね? 正直、大失敗で終わったと思ってました!」
MCのクラッチもGreenhorn-onlineのプレイヤーであることを番組冒頭で伝えていたこともあり、彼女の言葉に多くの視聴者も共感した。
「言ってもいいですか?」
彼女の言葉を受けて、吉多も返す。
「僕も、大失敗で終わっちゃった! って、アタフタしてました。安藤さんもそうですよね?」
「そうだねー。城門が全部落とされた段階で、すんなり諦めちゃうとは思ってなかったね。それは想定外だった。でも、それはそれで、このゲームらしいかな? とも、思ってたけどね」
プロデューサーもディレクターも、思わず苦笑いである。
「それで、聞いちゃってもいいんですかね? 見てる方も、きっと気になってる方が大勢いると思うんですよ。どうやって失敗から成功に大逆転したんですか?」
そこで、吉多が細部は濁しながら答え始める。
すでに多くのプレイヤーに情報が流れているように、イベント期間中に〈修復〉のスキルを取得できるチャンスがあったこと。
このスキルを制限時間ギリギリに見つけたプレイヤーがひとりだけいたこと。
〈修復〉によって復活した城門が、残っていた2人のプレイヤーによって守られたことにより、何とか防衛に成功できたことが伝えられたのである。
これには視聴者も騒然とする。目撃情報と数が合わないからだ。
「ってことは、そのおふたりがいなかったら失敗のままだったと?」
「そうなりますね。でも、この話がすごいのは、〈修復〉を見つけたことでも、城門を修復したことでもないんですよ。これは、今回、話したかったことのひとつですね」
「何か、私たちの知らないドラマがあったってことですね?」
「はい。実は、城門が〈修復〉されると、ゴブリン軍の大進撃が始まるように設定されていたんです。でも、こちらの想定としては、わりと早い段階でこのスキルが見つかると思っていたので、防衛側の最低ラインは100人までしか用意していなかったんですよ。これは反省として、次回以降に活かしていきます」
「ん? え?」
「ひとつの拠点を守るプレイヤーが、最低100人はいる前提でプログラミングしていたということです」
「え!? つまり、100人で守らないといけない城門を、たった2人で守り抜いたってことですか?」
「あー。ちょっと違いますね。壊れているところも含めて、3つの門、全てを攻撃するものなので、ひとつの門をだいたい30人前後で守る、って感じです」
「いや。それでも、残っていたのは2人なんですよね? しかも、結界装置の防衛もあるから、城門だけを守ればいいって話でもないですよね?」
「そこなんです。ちょっと見てもらいたい映像があるので用意してきました。これは、制限時間が3時間を切った段階で発生する猛攻の場面なんですけど、どうやって城門が落とされていったのかを、まずは見てもらおうかなと……」
画面が切り替わり、神視点による防衛戦の現場が映し出された。
フィールドに出現するゴブリンの数が一気に増え、軍勢となって城門に押し寄せる様子がダイジェストで流れ、城門が突破されていくまでが手短に紹介されていくと、再びスタジオに画面は切り替わった。
「あー。多くの方の悲鳴とトラウマが駆け巡っていますねー。人数が最低値なので、ゴブリンの数はこれよりはずっと少ないとはいえ、このレベルの猛攻を、本来はレベル30以上のプレイヤーさん30人前後で守らないといけないのに、2人で……」
吉多はそこで一拍空けると、クラッチが後を引き受けた。
「守り抜いちゃった、と?」
そこで、吉多も安藤も感慨深そうに無言でゆっくり頷く。
「ど、どーやって、そんなことできたんですか?」
無言の2人に追加で尋ねる。
「まず、僕たちも不正がなかったのか、映像とログで確認しました。映像は、そもそもリアルタイムで見ていたんですけどね。不正は一切ありませんでした。それはご安心ください。その後、もう少し調べてみたんですけど、おふたりが一緒に残ったのは、どうやら偶然みたいなんですよ。他にプレイヤーがいなかったのも、色々と条件が重なってしまって、仕方なかった部分もあります。本人たちも、わりと破れかぶれな感じでしたから……。まあ、ぶっちゃけ、単純におふたりのスキルの使い方が上手かっただけです」
吉多は困ったように笑みを浮かべた。
「もちろん、このおふたりが取得しているスキルなんかが、ちょっとユニークで強力なものが多かったっていうのはあるけどね。正直なこと言うと、私もこんなことできるんだ、って覚えていないくらいにレアなものなので……。それもあって、目撃情報と食い違いが出ているみたいだけど」
吉多の説明に、安藤が補足する。
「ああ、そうですね。先ほどからチラホラとコメントでも出ていますけど、出回っている目撃情報は間違っていないです。でも、残っていたプレイヤーは2人なの。そこは、察して」
吉多は手を合わせながら、友人に対するように謝罪すると、本題へと移るのだった。
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