第62話

「ねえ? カラス使い君。本当は何しようと思ってるの?」

 モカはハルマの後についてきながら、誰もいなくなったことを確認すると尋ねてきた。先ほどまで残っていたプレイヤーの中では、彼女だけがハルマがどういうプレイヤーなのか全く知らないはずなのだが、何かを隠していると確信を持っている雰囲気である。

 その真っ直ぐな目は、アバターのデジタルなものであるはずなのに、どことなく全てを見透かしているような猫を思わせる。

「か、カラス使い……? 俺はハルマって言います。よろしくです。別に、何もないですよ?」

「嘘はダメだよー? おねーさん、こういう勘は鋭いんだから……。絶対面白いことになるって匂いがプンプンしてるもの」

「ハルマ、臭いの?」

 モカには見えていないが、マリーが隣でクンクンし始めてしまったのは我慢して無視する。

「ハァー。わかりました。何の確証もないからひとりでやりたかったんですけどね。さっきまでイベントのルールを読み直してたら、妙な言い回しに気づいたので、試してみようと思っただけですよ」

「なんか、変なルールがあったっけ?」

 モカはコテリと首を傾げる。

「失敗の条件のところです。『失敗の条件は2つ。拠点にある3つの城門が完全に破壊され、15分が経過した場合。拠点中央に設置されている結界装置を破壊された場合。なお、結界装置を破壊されると、城門が残っていても、即座に失敗となる』ってありますよね?」

「うん? 別に、おかしなところは、ないよ?」

「これだけなら、そうですね。でも、サーバー移動にかんする項目。『3つの城門が全て破壊され、15分が経過した後にも居座り続けると、3時間、サーバー移動ができなくなる』って、ところと合わせると妙じゃないですか?」

 モカも自分のメニューからイベントルールを開いて確認している。

 そうやって、ハルマの言わんとすることに気づくまでは少し時間がかかった。

「失敗の条件の方にだけ、完全に、って言葉があるってこと?」

「そうなんです。もしかしたら、城門はまだ壊れていない可能性があるんじゃないか? って、思ったんです」

「いや、さすがにそれは、深読みしすぎじゃない?」

 モカも半信半疑というよりは、懐疑的に傾いたようだ。

「だから何の確証もない、って言ったじゃないですか。でも、これだけならさすがに俺もそんなこと思わないんですけど、イベント始まってからずっと気になってることがあるんですよ」

「?」

「何でイベントサーバーでEポーションの素材以外のアイテムが拾えるのか。何でこの拠点に〈調合〉以外の職人設備も置かれてるのか、って……。岩とか木材って、拠点の修復用なんじゃないですかね?」

 職人視点で見てきたからこそ感じていた違和だった。そうでなければ、職人設備に〈調合〉以外のものが置かれていることなど知りもしないだろう。

 ここまで話すと、さすがに可能性がゼロではないという気がしてきたのか、モカの目に輝きが増していく。

「ハルちゃんは生産職なんだよね!? 修復できるの!?」

 希望が出てきたことで、前のめり気味に尋ねてきた。

「ハルちゃ……。あー。いやー。すみません。ここまで話しておきながら、やってみないとわかんないです。それも含めてひとりでやりたかったんですよ」

 ハルマは正直に頭をかきながら答える。

「おっけー! 可能性があるのなら全力で協力するよ! 時間もあまりないから、急ごうか」

 なぜだか俄然楽しそうになっているモカだった。そう。彼女もどこかハルマと似たような気質のプレイヤーなのである。そうでなければ最強の異名を得ることはなかっただろう。

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