第43話

 開け放たれた扉から姿を現したモンスターは、雨具と思われる蓑と笠を身につけているが、全身を強靭な筋肉で包み、立派な2本のツノが生える牛の顔をしていることがわかった。手には巨大な斧が握られており、いかにも破壊力のあるボスであることが伝わってくる。


 ……の、だが。


「ミノタウロスにしては、ちっちゃくね?」

 全員が思っていた感想を、代表してチップが口にした。

 遠くにいるからシルエットが小さいのかと思ったが、近寄ってきても印象が変わらなかったのである。

「いやーん。カワイイ! ゴブリンサイズのミノタウロスとか、超カワイイんですけど!」

「いやぁ……。サイズ以外、カワイイ要素見当たらないんだけど?」

「みのかさタウロスだって。いかにも安藤さんが好きそうなモンスターだね」

 シュンはディレクターである安藤の過去作を思い出しながら、嬉しそうな表情を浮かべている。ハルマもそれには同意した。

 そうやって、緊張感がどこか抜けたままボス戦へと突入したのだった。


 みのかさタウロスの攻撃は、見た目の通り単純だった。典型的なSTRとVITは高いがAGIとINTは低い、物理攻撃重視の脳筋タイプ。

 自分の身の丈よりも大きな斧を振り回し、ガンガン前衛に攻撃を仕掛けてくるが、チップが両手剣でさばいている間に、シュンが回避盾の本領を発揮し始める。

 短剣での攻撃はダメージを与えることが目的ではなく、それによってヘイトを集め、ターゲットを自分に向けるためにある。

 みのかさタウロスのモーションの大きな攻撃を躱すのは、回避を重視した戦闘スタイルのシュンにとっては、練習相手に丁度いいと思えるくらい余裕だった。

 あとは、シュンからターゲットが移らないように、ダメージを与えすぎない程度に他のメンバーでHPを削っていくだけだ。

 それでも、時折ターゲットがアヤネに移った時は、チップが高い防御力を活かして壁をすることで時間を稼ぎ、シュンが立て直す。

「ラフのエンチャント、ありがてぇ」

 壁になって進路を塞いでいる間、攻撃はまともに受けざるを得ないのだが、マリーに前もって指示していたお陰で、戦闘開始早々チップとシュンにはエンチャントがかけられていた。

 トワネにデバフ系の魔法も頼んだのだが、下がってもあまり意味のないAGIとINT以外はレジストされてしまっていた。

 ハルマも弓を使って攻撃に参加はするが、ただでさえ低いステータスの上、レベルもこのダンジョンに入ってひとつ上がったとはいえ、他の3人の半分以下である。今のところ貢献できているのは、ハルマ本人よりも圧倒的にラフの方だった。

 結局、ボスとしての難易度は、始まりの町エリアにあるダンジョンに相応しいもので、大きな盛り上がりもないまま終わってしまった。


「ま、やっぱり、スキル取得はないか」

 チップは剣を収めながらつぶやく。

「ハルマ君みたいなプレイヤーを活かすダンジョンの方がメインなんだろうね。あ、ほら、ドロップあるよ」

 シュンは回避盾として機能できたことに満足できたのか、表情は明るい。

 見ると、みのかさタウロスの倒れた場所に、宝箱が出現していた。


「見事に、みんなバラバラだな」

 宝箱を確認して出てきたのは、みのかさタウロスが使っていた両手斧、INTアップ効果の付いた頭装備、雄牛のツノと百厄の薬というアイテムだった。

「オレたちのパーティで使えそうなの〈稲穂のカチューシャ〉くらいだな。オレの素材、ハルマにやるわ」

「そうだね。ボクのもハルマ君にあげるよ」

「え!? いいのか? 百厄の薬なんて、便利そうじゃ……。これ、回復薬じゃなくて素材なのか。しかも、思いっ切り酒って書いてあるな」

 使い道のわからない素材だったが、ハルマのドロップは自分的には一番のハズレである両手斧だったので、一気にテンションが上がっていた

「いいの、いいの。このダンジョン攻略できたの、明らかにハルマのおかげだから。それに、どうやらこのダンジョン、一回攻略して終わりじゃなさそうだからな。また協力してくれよ」

 このダンジョン、ボスを倒すと難易度が上がって再攻略が可能になるものだったのだ。そのため、奥にはダンジョンの入口に戻る転移装置の隣に、再入場用の転移装置も併設されていた。

「わかった。でも、難易度上がるってことは、罠のレベルも上がるだろうからすぐには無理そうだな」

「そうだな。とりあえず、今日は帰るか」

 そうして、素直にダンジョンを後にするのだった。

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