第20話

 場所は再び森の中。

「何してるのー?」

 マリーに尋ねられる。

「んー? どうやったらこの家を使えるようになるのかな? と、思ってね。調べてるんだよ」

 廃村に唯一残っていた、原形をとどめている家の中だ。

 サイズは些か小さく感じるが、壁と床の一部に穴が空き、入口の扉と窓がいくつか壊されている以外問題なさそうである。壁も屋根も崩れ落ちてしまっている、他の家よりは格段に良好な状態である。

 村の跡をちゃんと観察してみると、どうやらご神木のあった切り株を中心に、外に行くほど荒らされている傾向があった。

 つまりは、切り株であっても霊力のようなものが残っているのかもしれない。

「〈錬金〉レシピの中にレンガはあったから、壁はレンガで埋めればいけるか? 扉と窓は、なんかレシピがあるのかな? うーん。どこかでしらべ……、あ」

 調べるといえば図書館と、すぐに思いつく。

「必要そうなものはわかったから、町に戻って調べるか」


「すみません。大工に関する本ってないですか?」

 相変わらずプレイヤーが誰も来ない寂れた図書館で、ひとり静かに本を読んでいた受付の老婆に尋ねる。

「すまないね。ここには置いてないよ。でも、そうだね。木工ギルドのあるアースガンドの図書館だったらあるかもしれないよ」

「あ!? え? ここ以外にも図書館あったんだ」

「ひっひっひ。ここと同じで、どの町の図書館も隅に追いやられているからね。知らなくても仕方ないさ」

「そうなんですね。すみませんがアースガンドの図書館だけじゃなくて、他の町にある図書館の場所も全部教えてもらえますか?」

 図書館によって蔵書が異なるのであれば、この先の冒険で必要になる時が来るかもしれない。

「ああ、かまわないよ」

 その場で場所を教えてもらうと、すぐに向かうことにした。


 目的地に到着してすぐに、「あれ?」と、思わずマップを開いて現在地を確認していた。

 間違えてウォータニカからウォータニカへと移動してしまったか? と、錯覚したからである。

「いらっしゃい。こんなところに珍しいね。まあ、ゆっくりしておいき。何かあったら気軽に言いな」

 入ってすぐの場所に腰掛けている受付と思しき老婆がこちらを一瞥すると、すぐに読みかけの本に視線を戻す。その様子も見た目も、ウォータニカにいた受付の老婆とまったく同じに見えたからである。

「あの。すみません。大工に関する本はありますか?」

 ハルマの問いかけに、老婆はジロリと視線を上げると狭い室内の一角を指さした。

「あそこの棚にあったはずだよ。ここで読むだけならご自由にどうぞ。借りて帰る場合は1冊につき500Gちょうだいするよ」

 こういうところはNPCなんだなと、案内に従いながら思うのだった。


 アルファベット以外は読めるようになっていたこともあり、ほとんどの文字を理解できることで、目的の本もすぐに見つけることができた。


『家に必要なものは、床、壁、屋根、入口の扉である。これに明かりを灯せば、最低限人が住める家となる』

『家具作りと一緒で、家に関するものは〈木工〉職人に頼むと良い。ただし、なかには特殊なものもあるので〈鍛冶〉や〈裁縫〉の職人のちからを借りる必要もあるだろう』

『家を建てるためには壊す道具も必要となる。もっとも一般的な道具だと〈大きな木づち〉だろう』

『家造りに挑戦したいなら、この本の著者である吾輩のところを訪ねるといい』


「どうやら、思った通りサンドボックス系の要素もあるってことだな。住宅地のサーバーは用意してないけど、自分たちで作ってね、ってことか。いや、しかし、さすがにどこでも家を作れるとは思えないから土地は有限だろ? 独占できるものなのか?」

 一通り読み終え、重要そうな部分を頭に入れるとしばし考え込む。しかし、当然、答えがわかる訳でもないのですぐに思考は切り替わった。

「とりあえず、眉唾だけど案内通り行ってみるか」

 善は急げと、その足で本の末尾に書かれていた場所へと向かうのだった。













 

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