第10話
いたずらゴーストのマリーにとり憑かれて、何かが変わったかというと、色々変わった。
どうやら、マリーの姿は、設定しなければ基本的にパーティを組んでいないプレイヤーには見えないどころか、NPCにも見えていない――NPCの場合は設定もできない――ようである。
そのくせ、もともとがイタズラっ子属性の活発な子であるので、マリーは頻繁に話しかけてきた。結果、傍から見たら、独り言の多いプレイヤーとなっていた。
しかも、いたずらゴーストとしての本能がそうさせるのか、時折、誰かれ構わずイタズラを仕掛けるため、何が起こるかわからないドキドキが常につきまとうことになったのである。
「ギャー!? マリー! またイタズラしたな!」
大声にならないように気をつけながら隣に浮かぶマリーに非難の目を向ける。
鉄のインゴットに挑戦していたのだが、出来上がったのは銅のインゴットだった。いつの間にか、鉄鉱石を銅鉱石にすり替えられた程度ならまだ被害は少ない。これが、鉄鉱石のまま銅のインゴットに錬金されてしまうこともあるのだ。
しかし、この逆もありえるのがマリーの困ったところで、怒るに怒れないのである。この生産作業中のイタズラはハルマにしか起こらないことが、唯一の救いだろう。
それでも、こうも度々イタズラされていては、回りから奇異の目で見られてしまう。ハルマは心の中で早く拠点を確保しなければと誓うのだった。
「つまらなーい。こもってばかりじゃなくて、町の外にも行こうよー」
ハルマを依代にしているため、マリーは以前のようには自由に動き回ることができなくなったのだ。
「いや。そのための準備で、こうやって職人仕事してるんじゃないか」
鉄鉱石を再び取り出し、魔法陣で鉄のインゴットに錬金しながら答える。
今、ハルマが作ろうとしているのは、鉄のレイピアと革系の防具類である。これらは自分が装備するためのものではなく、マリー用のものでもない。
ケット・シーのラフのためだった。
ダイバーから手品のスキルを教わった際、ケット・シーの修復を行ったことで、EXスキルの〈傀儡〉も追加で教わることができたのだ。加えて、マリーの依代となったことで、マリーが寂しがらないようにとラフも譲り受けていた。
スキル〈手品Ⅰ〉は、演芸用のスキルであり、アイテムを消費することで手品を披露できるスキルだった。つまりは、手品を使えるようになるスキルというより、手品用のアイテムを作れるようになるスキルと言った方が正確だろう。
戦闘中にも使うことが可能で、成長していけば攻撃用の手品も使えるようになる。魔法と違い、MPを消費して使うスキルではなく、消費アイテムを魔法のように使えるというものらしい。
〈手品〉のEXスキルである〈傀儡〉は、専用のマリオネットを使えるようになる他、相手の魔法防御力より自身のDEXが3倍以上ある場合、相手を操れるというスキルで、魅了の状態異常攻撃に近い使い方もできるようだ。つまりは、相手の魅了耐性が高ければ、レジストされる可能性も高くなる。
また、魔法防御力は、プレイヤーが任意に上げることのできないステータスのため、装備品による対策が取りやすくなっていることから、3倍という要求値の高さもあり、どこまで有益な使い方ができるかは未知数だった。
そのため、まずは〈傀儡〉の基本的な使い方である、マリオネットによる戦闘を検証しようとしているのだ。
ラフのステータスも確認することもできるのだが、自分の偏ったステータスと比較したところで、それがどのくらいの強さなのかは、さっぱりわからなかったのである。どこかのサイトで、ステータスの検証もなされているのだろうが、ハルマとしてはそういう攻略サイトは、極力利用したくなかったのである。
今のところわかっているのは、基本は人形のためレベルが上がることはないが、使われているパーツを強化することで成長すること。また、人形の種類によって得意分野が異なるらしく、ケット・シーは片手剣による物理攻撃ができる他、バフと状態異常系の魔法を使うことができることだけだった。
ただし、1人で2人分の戦力になれるかというと、そうはならない。
〈傀儡〉のスキルを使っている間、使用者は両手が塞がり、消費アイテムを使えない上に、戦闘系のスキルも魔法も使うことができないからだ。
つまり、ソロプレーがメインのハルマでは、使い勝手が非常に悪いのである。
それでも、近接物理攻撃に関しては、脆弱なハルマよりも期待できるので、作れる範囲で最上位の装備品を作製しているというわけだ。
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