戦争商売

「それともう一つ。コロッサルで新興宗教が流行っている背景は?」


 コロッサルとは、ノートスの近くにある小国だ。

 国内情勢はノベルも詳しく知らないが、ノートス同様に貧しい国だと書いてある。

 それについては、アルビスが説明した。


「政治だけでは、どうも経済が立ち行かなくなったようです。それで突然現れた教祖が宗教を広め始めたらしいのですが、それが貧困にあえぐ国民の心を掴んだようで……」


「そういうことか。どんな内容なのか分かります?」


「私たちの知る宗教とは違い、過激な思想らしいですな。竜人族を敵視し、彼らを批判することで支持を得ているそうです」


「戦争、か……」


 ノベルはため息を吐き、頭上を仰ぐと重苦しく呟いた。

 その言葉を聞いたルインは、眉を寄せ聞き返した。


「ノベルさん? 今なんと……」


「多分、戦争が起こります。戦争商売になんか、手を出したくはなかったけど――」


 ノベルは暗い表情でルインへ目を向けた。

 

「ルインさん、ノートスで一、二を争う武器商会に投資しましょう。すぐに武器を手配させるんです」


「な、なにを!?」


 ルインは驚愕で言葉を失い、イーリンは不安げに瞳を揺らす。

 キースも身を乗り出して険しい表情で言った。


「どうしたノベル!? なにを考えているんだ? どこにも戦争の火種なんてないだろ!」


「いや、過激思想の新興宗教が広まってる」


「それがどうした?」


「コロッサルは、ノートスだけでなくドルガンのコンゴウ州にも近い。そんな国が竜人族を悪者に仕立て上げているんだぞ」


「けど、それだけなら根拠が弱すぎる」


「国民が貧困にあえいでいるんだ。国の経済も回らず、これを打開する方法は多くない。昔、こことは違う世界の歴史を学んだ僕には分かる。こういう小国の末路が」


 ノベルは立ち上がり、自信に満ちた表情でキースを堂々と見つめ返した。

 だがキースも折れない。


「さすがに見ているものが違う。けどな、戦争商売だけはやめておけ」


「それは聞けない」


 しばらくノベルとキースの無言の睨み合いが続く。

 会議室は重苦しい空気に包まれ、他の四人も固唾を吞んで成り行きを見守っていた。


「……分かった。そこまで言うのなら、もう止めない」


 キースはようやく折れ、深いため息を吐いて座った。

 ルインは反対したりせず、ノベルの指示通り、ノートスの武器商会との交渉に乗り出すのだった。


 国内調査の末、ノートスで最も勢いのある武器商会が特定できた。

 マルベス武装商会だ。

 武器の仕入れ先を国外に複数持ち、あらゆる装備品を取り扱っている。ノートス国内に出店している武具販売店は、ハンターや騎士たちにも人気だそうだ。

 さらに、武装商会という名の通り、武装した会員たちを傭兵として雇うこともできるという武闘派でもある。

 会長であるマルベスは、かつてノートスでトップクラスハンターに輝いた後、開業しマルベス武装商会を結成した。

 彼の持ち味である強引で豪快な商売によって、破竹の勢いで規模を広げていったそうだ。貴族や政治家など、権力者をも恐れぬその大立ち回りは、誰も邪魔できなかったという。今では、貴族たちの用心棒としても頼りにされているようだ。


 ノベル、ルイン、アルビス、アリサは、早速マルベス武装商会へ交渉に赴いた。

 屋敷内は、仄暗く武骨なよそおいで、壁には龍の絵や装飾用武具が飾られており、会員の座るテーブルの後ろには酒樽さかだるが置いてある。筋骨隆々なオールバックの男や、眼帯をつけた厳つい男らがキセルのような細い棒を口に咥え、煙をふかしている。

 現代でいうところの、極道のようなイメージなのかもしれない。


「――スルーズ投資商会の会長ルインと申します。本日はマルベス商会長にご相談があって参りました」


 入ってすぐ、近寄って来た細身の男へルインが告げると、彼は丁寧に応対し二階へと案内した。

 一階の奥に武器庫があり、二階に執務室や応接室があるようだ。

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