夏空に恋する如月

Scene.052

 夏空に恋する如月


「また知らない子のこと家族って言った」

 車窓から見るその景色は、まるで海の上を渡っているかの様だった。海上を走る電車の傍らには線路が並走している。まだ雪の残る二月の、その寒空に車輪が軋んだ。

 音を立てて開いたドアから吹き込む風が、夢現を引き裂く。寝ぼけ眼のぼやけた視界が鮮明になって、そこから上がり込む極寒の使者の姿を捉えた。彼女は左手に白いビニール袋を下げて、痛々しく、寒々しく両方の頬を赤くしていた。

「ただいまー」

 おかえり、と声をかける。そして、また夢枕。

 夢の中では、爽快な夏空と向日葵が頬笑みかけている。そんな恋心に似た陽射しの淵。耳元で誰かが囁いた。

「また知らない子のこと家族って言った」

 目を覚ました其処に、彼女の姿はなかった。


 これにて、了。

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